イチローがその偉大な記録以外で社会にインパクトを与えたこと

イチロー選手、ついに引退してしまいましたね。
21日の開幕第二戦、結果的に引退試合になってしまった試合に現地観戦してきました。
皆が試合そのものよりも、イチロー選手の一挙手一投足に注目している感じで、アスレチックスの選手たちに申し訳なくなるくらい、一体感のある異様とも不思議ともとれる空間でした。
わたしにとって、イチロー選手はほぼ同じ世代の星であり、贔屓の球団以外で初めて熱烈に好きになった選手でもあるスーパースターです。なので日本にいるときも現地でそのプレーを観ていましたし、メジャーリーガーになってからも、日米野球凱旋した時も、前回のマリナーズが来た時(このときは4安打しました!)も現地で観戦しました。
とても思い入れのあった選手なんですよね。なので、今回、イチロー選手の打席を見るたびに泣きそうになり、交代したときは、心にポッカリと穴が空いたような、寂しい気持ちになりました。
本当に、これまで楽しませてくれて、違う世界を垣間見せてくれて、ありがとうございますと感謝の気持ちしかありません。

さて、イチロー選手の偉大さを語る時、もちろん日本での210安打から始まり、7年連続の首位打者に、メジャーに行ってからも新人王、シーズンMVP、262安打に、10年連続200本安打、そして3000本安打とありえない記録がすべてを物語っていますが、個人的にはイチロー選手にはもう一つ、社会に与えてくれた大きな足跡があると思っています。
これが、プレー以外でわたしがイチロー選手が好きになった理由でもあるのですが、平たくいうと、イチロー選手はその道を究める超一流の選手でありながら、どうやって数々の困難を乗り越えてきたのか、そして何をどれだけ苦しんできたのかといったことを誰にでもわかるような分かりやすい言葉でしっかりと語ってくれており、そのことが一つの大きなロールモデルとして社会に良い影響を与えているんですよね。
よく、アンチイチローを公言にする人の中で、カッコつけているみたいで嫌だという人がいますが、これは誤解です。その言動からわかるように、彼ほど自分の気持ちを正直に喋る人はおらず、彼ほどそのダメな部分までしっかりと理由をつけて説明してくれるアスリートはなかなかいません。

イチロー以前のプロ野球選手は、よく宵越しの金を持たないとか、酔っ払ったまま試合に出るとか、そういったエピソードがポンポン出てくるような、とにかく破天荒で型破りであるほど魅力的であるとされ、それこそがスーパースターの条件なのだという風潮が少なからずありました。
確かにそういった人間味のある側面は感情移入しやすい話であることは否めませんが、問題はスターたちのそういった尖った立ち振る舞いをみた一部のファンが、少なからずそれらを自分自身の悪しき習慣への言い訳にしていた可能性が高いという点です。
滅茶苦茶やっているスターの姿がかっこいい、だからオレたちも真似をする。
もっとわかりやすく言えば、任侠映画で高倉健を見てカッコいいと思って、ヤクザそのものとまでは行かなくても、ちょっとやさぐれた行為をカッコいいと思ってしまうような感じですかね。ようするに、実際とイメージのギャップの誤解を与えてしまうようなロールモデルが溢れることで、それを見てカッコいいと思った人たちも、それぞれが生きる道の中で勘違いなカッコ良さを実行し、周りに迷惑をかけるという悪循環に陥ってしまうわけです。
まあ、ネットもない世界でしたし、スターたちの本音も見えにくく、また弱さを語ることが社会的に許されていなかったり、当人たちもそれらを語るための言葉を持っていなかったんですよね。
そうした風潮に対して、まあ、技術の進歩や社会の変化のせいもありますが、突然颯爽と現れた若き日のイチロー選手は、その実力を絶え間なく見せていくうちに、そのしっかりとした言葉によって、技術的な話だけでなく、自身の心に起きた変化までをも説明してくれました。まるで、自分がキチンと説明することに自分の使命があるとでもいうかのように。
イチロー選手が自分のこととして常に語っていたことで、個人的に一番重要なことだと思うは、自分がベストのパフォーマンスをするために、そのための努力を惜しまないという姿勢をしょっちょう口にしていた点です。有名なのは、自分で野球道具を手入れして、大事に扱うこと。野球以外のことでストレスをためないように、生活を出来る限りルーティンに、シンプルにして、自分がトレーニングに集中しやすい環境や、自然な形でゲームに入っていける環境を整えていくこと。
つまり、心身のケアや野球に対する取り組み方がいかに大事かと言うことを切々に説いたことです。
超一流のスーパースターがこうしたことを克明に社会に発信したことはとても意義があります。
得てして、わたしたちは世界で活躍する人たちを見る時、あの人たちとは持って生まれた能力が違うだの、彼らは天才だから自分たちとは違うだの、と思ってしまいがちです。でも、才能だけで世界で活躍できるほど、世の中は甘くはありません。そこには血のにじむような努力が必ずあり、それがなければ、成り立つ話ではないのです。
イチロー選手ほど、目標に向かって真摯な姿勢で自分と向き合うことの大事さを何度も、しかも分かりやすい言葉で、繰り返し言い続けてきたスーパースターをわたしは知りません。しかも、それで大きな結果を残したわけですからね。これほど説得力があり、また人にいい影響を与えるロールモデルはないですよね。

またわたしがイチロー選手が素敵な人だと思う点は、自分の気持ちの変化を素直に語る点です。
今回の記者会見では、自分の記録が落ち、去年から試合に出れなくなった状況に陥った中で、自分が成し遂げてきた記録は取るに足らない小さなものだと思うようになり、それよりもそうした状態の中でも練習をする自分自身に小さな誇りを感じていたことを語っていました。また、最初は自分自身のパフォーマンスを良くすることでチームが良くなるのだということがモチベーションになっていたが、途中からファンが喜んでくれることこそが自分にとっての一番のモチベーションに変わったとも素直に言っていました。
単純なことですが、自分が何を感じてきたのか、それがどう変わって来たのか、そういうことをキチンと語れるってとても難しいんですよね。良くも悪くも色々な感情が絡んで、素直に言うことや前言を翻すことが恥ずかしく思ってしまったり、ヘンにカッコつけてしまったりと。
でも、スーパースターがこうしたことを劇がかった感じではなく、当たり前のことのように淡々と語ってくれるのは本当にありがたいです。
みんなが、素直に自分の気持ちを話してコミュニケーションを取るようになれば、どれだけ世の中が良くなるか想像しただけもワクワクしますからね。
その先陣を切って、イチロー選手はこうしたことでもロールモデルになってくれていたんですよね。

ファンとしての本音としてはもっと見ていたかったですが、やはり引退は本人が決めたことですからね。今は、お疲れさまでしたとしか言えません。
今後はまずはマリナーズのフロントに入ると思いますが、そのうちイチロー選手自身が第二のイチローを育成するような、そんな夢のある話を見て見たいですね。

イチロー選手、ありがとうございました!

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