人手不足の解決策

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00026/031900004/

何年か前に大規模出店で目立っていた東京チカラめしが、今や8店舗のみになっているという記事ですが、その後別の会社に買い取られ、ほとんどの店舗が違う店となってスタートしているそうです。

注目するべきは、まず東京チカラめしが店舗を減らしていく中で、人手不足を理由に、自分たちの経営のミスにはあまり言及していなかった点。このことについては、記事でも言っていますが、東京チカラめしだけの話だけじゃなく、多くの企業が減収や撤退の理由として人手不足を口にしている、つまり人手不足という言葉が逃げ口上となり、自分たちの経営ミスをまるで誤魔化すかのように使われていることは、個人的には問題だと思います。
確かに人手不足となり、人材を確保出来なくなったのは、一企業だけの責任ではないのかもしれません。ただ、人手不足に対して、その企業が有効な対応策が取ったかどうかは別の話です。
実際に、賃金の問題もそうですが、労働環境その他で企業努力をしたかどうか、そして出来る限りにおいて人材を確保するために間違った処方を取ったか取らなかったかは、明らかに経営側の手腕にかかってくるところですからね。
大した方策を取らなかった、または間違った方策を取った、というのなら、それは間違いなく経営側の責任です。
それを、すべては世の中が人材不足だからしょうがないと誤魔化すのはあり得ない話です。

そしてこの記事の中で注目するべき点はもう一つ。人材不足だからと言って売られた東京チカラめしが、別の運営会社で別の店となって生まれ変わった今となっては、しっかりとした黒字運営になっている上に、人材不足も解消されているという点です。
では、この会社がどのような方策を取ったかと言えば、実はビックリするほど大したことはしておらず、当たり前のことをしただけなんですよね。
それは、とにかく猥雑なオペレーションを減らし、社員教育を徹底したこと。
肉を焼くという面倒なオペレーションがあったために、通常の牛丼店などと違って手間がかかっていた東京チカラめしは、急激な店舗の増加によって、社員教育も覚束なくなり、そこに人手不足が重なってにっちもさっちもいかなくなったと言われています。
そこで、多くの店舗をより手間のかかる焼き牛丼店ではなく、一人でもできるラーメン店に替えたことで、働き手に負担がかからないようにしたんですよね。

そして、もう一つ重要なのは、この運営会社が人材確保をいわゆるネットや雑誌などの求人募集に頼るのではなく、今働いている人の口コミに頼っているという点です。このことはとても重要です。裏を返せば、このことが職場の環境がいいということを証明しているわけですからね。

ブラックな職場を友達に紹介しようと思うなんて人は、大抵はいません。でも、職場の雰囲気やよかったり、運営会社がしっかりしていて、社員教育もしてくれ、そしてキチンと社員のことも考えてくれる場所であるならば、給料がそんなに高くなくても、入りたいと思う人、もしくは紹介したいと思う人はたくさんいますからね。

社員が働きやすい環境を作るために、企業が努力するということはとても大事です。これは賃金だけの問題じゃありません。お金をかけなくても、企業として自分たちの社員がいかに働きやすい環境を作る、そしてとにかくコミュニケーションをよく図り、ねぎらいや感謝の気持ちを従業員にしっかりとした本音として伝えることを忘れなければ、それに応えてくれる社員もたくさんいるはずです。
でも、企業が社員を駒のようにしか考えず、ただ現場に放り投げるだけの運営をしていれば、この人手不足の世の中なのですから、すぐに社員に愛想を尽かされてしまいます。

このことを考えると、わたし個人としては、五年ほど前の出来事を思い出してしまいます。
当時人手不足が今ほどではありませんでしたが、その兆候が見え始めていたので、たまたま話す機会があった自分の勤める現場のエリアの責任者に、人手不足の波がやってきているので、せめて今いる人が辞めないように色々と考えた方がいいですよ、と進言したところ、そのエリアの責任者は、そんなことが起こると思っているの?といわんばかりの態度で、鼻で笑うだけでした。
一方で、当時わたしの妻が求職活動している中で出会った会社は、社員の働きやすい環境を作ることを第一に考えることを企業としての哲学としており、そんなに大きな会社ではないのにも関わらず、口コミだけでほとんど人を集めており、人手不足に困った様子はまったくありませんでした。

この二つの会社がその後どうなったのか、考えなくてもわかりますよね。ちなみにわたしが今働く現場は、次々と優れた人が辞めていき、人手不足の極みとなってもはや負の連鎖に陥ってどうしょうもない事態になっています。
自分のことを肯定するわけではありませんが、あのとき対応しておけばと本当に思います。でも、問題は、鼻で笑ったエリアの責任者の能力ではなく、やはり企業そのものが現場の声を経営者側が拾う気がないシステムになっていること。社風がそうであるから、そもそもエリアの責任者も、現場の責任者も、上からのトップダウンの命令を忠実にこなすだけが正義となっており、それを疑うことなく実行できる人だけが昇進するというシステムになっている、また余計なことをいう人間を弾くシステムになっているんですね。

現場の声をすべて聞けというわけではありません。でも鼻から現場の声を聞かない、聞くべきでないという姿勢は、今の世の中では確実に自分たちの首を絞めることになります。

以前「人材」と言う言葉を、「人財」に変えるべきだと言っていたテレビのコメンテーターがいましたが、その通りだと思います。
人こそが、その企業にとっての宝です。その人を活かすも、辞めさせるも、すべては企業の姿勢次第だということを今こそ多くの企業が認識するべきだと思います。そこをしっかりと考え、実行出来た企業だけが、きっとこれからも生き残っていくわけですからね。