「イン・ハー・シューズ」

イン・ハー・シューズ
2005年公開/アメリカ/

ベストセラーになった原作を読んでいないのでわかりませんが、そもそも原作が良いのか、映画化の際に脚色がいいのか、とにかく内容がすこぶる好みの映画でした。
人が羨む容姿を持っているのにもかかわらず、難読症というハンデキャップがコンプレックスとなって、人生を踏み外している妹のマギーと、弁護士としてキャリアを持ちながら、その容姿をコンプレックスに思い、履きもしない靴ばかりを集めている姉のローズという、まったくの対照的な姉妹を追うことで話は展開します。
まあ、ここまでの設定を見たところで、全然違う二人が・・・、というのは、もはや物語を作るうえでの常套手段とも言うべきやり方なので、目新しさはないのですが、面白かったのは、この二人が反発をしあいながらも、どこかで通じ合っている、つまり二人の絆が最初から見え隠れしているところです。飾っているローズの靴を、マギーが勝手に履いて出かけても、何だかんだで、黙認しているところなどは、その最たる例といえますね。どんなに迷惑者でも、どんなに文句を親友に並べても、不思議なぐらいに、ローズは、マギーの面倒をどうしても見てしまうし、マギーも、ローズのもとに戻っていく。
でも、そんな他人には絶対に理解出来ないような堅固な関係も、マギーが、ようやく出来たローズの恋人を寝取ってしまうという一線を越えた出来事によって、壊れてしまいます。物語は、ここでスタートを切り、展開していくのですが、しばらく二人を離しながらも、それぞれがそれぞれを取り巻く人々によって、学び、変わっていきます、つまり普通は、対照的な二人がぶつかり合うことによって、変わっていく、という話はよくあるのですが、この話は、二人をあえて引き離すことによって、自分がいかなる人間なのか、そして自分が他人の何を受け入れるべきなのか、を冷静に見つめ直して学んでいくという、ありそうであまりない見せ方をするんですよね。
このやり方は実に新鮮でした。しかも彼女たちそれぞれに現れる人々が、実に人間味のある人間たちで、非常に興味深かったです。ローズは、新しい恋人と知り合い、そして婚約するのですが、この婚約者が、ただの優男ではなく、どこか風変わりで、クセのある描き方をしているのが、妙にリアルで好ましかったし、パーティーでの継母の振る舞いなども、非常にこの手の人物の特徴をさりげないながらも、よく描いていると思いました。一方のマギーは、幼いころに別れた祖母を頼ってフロリダに行くのですが、こちらのエピソードに出てくる人々も祖母役のシャーリー・マクレーンはいうまでもなく、老人施設の老人たちが実に魅力的だし、特に目に見えぬ教授とのエピソードで、マギーが難読症を克服していくシーンなどは、個人的にはとても印象が深かったシーンでしたね。
まあ、こんな感じで二人は、別の土地で、別の時間を過ごすのですが、何気のない生活の中で、世の中は、自分とは違う人だらけだという当たり前のことに気がつき、そしてそれを観ているぼくたちも、自然と同じことに改めて気づかされます。自分の殻を破り、自分とは違う異質な他人の存在を認めることで、人は初めて、人と絆を深めることが出来るんですよね。確かに、ちょっと出来すぎなぐらいに、作りこみすぎているところはありますが、制作者側の大事なことを語ろうとする姿勢みたいなものが、一つ一つの生きたセリフになっていると思いますし、しかもそんな心にしみるセリフを引き立たせるかのように、そこかしこに描かれているユーモアがとても洒落ています。
タイトルからしても、この映画は、女性には人気があるものの、あまり男性には観られない、典型的な作品だと思いますが、ぼくとしては、あえて男性にも観てほしい映画だと思いましたね。