働き方改革を成功させるためにまず最初にやるべきこと

働き方改革が4月から始まりましたが、その効果のほどは不透明であり、いまだにそれが本当に効率化に向けて動き出しているかどうかは分かりません。ただ多くの企業が、残業を減らそうと躍起になっている中で、人を雇おうにも人手不足という上場が立ちはだかっているので、難しい状況に置かれていることは間違いないでしょう。

働き方改革を進めて、効率的な産業形態を目指すには具体的に一体どうしたらいいのか?
多くの人が、悩ましく思っている課題でありますが、個人的にわたしは、働き方改革が進められない企業がまずしなければならないことは、勇気ある撤退と人材を育成するための組織の再編成だと思っています。

具体的にそれがどういうことであるかを説明する前に、まずなぜ日本の企業において長時間労働が前提となっている不効率な産業形態になっているのか、そこを考えなければいけません。
そもそも日本という国は、欧米で生まれたイノベーションに対して、それを改良し、低賃金労働で大量生産して売りさばくことで成り立ってきた国です。高度成長期はこうした背景の中で、低賃金労働と大量生産を首尾よく行うために新卒一括採用と終身雇用制という二つの制度を軸にして人々に働いてもらっていたのです。
しかし労働者の賃金が一定の額を超え、バブルが崩壊した時点で、これらの労働システムはもはや時代遅れのものとなってしまい、本来ならばイノベーションを作り出すような労働環境を作り出して、産業形態そのものをより効率的で効果的なものにジャンプアップさせなければいけなかったにも関わらず、この時点で行われたのは、派遣法の施行と本来ならば次世代のイノベーションの担い手となるべき若い世代を新卒で雇うことを抑制し、就職氷河期世代をつくり出すという後先考えない暴挙でした。
その先の平成の時代は、とにかく労働者の賃金を低く抑えることと長時間労働でどうにか社会を維持することに躍起になった時代で、さらにここに少子高齢化の問題が追い打ちをかけて、ハッキリ言って先細ってしまっているのが今の日本社会の現状です。

そうした現状の中で、企業の状況を見渡してみると、一番の問題は、やはり組織の中で効率的な仕組みが作られていない部分にあるでしょう。特に日本の会社の場合は、これでもかというほど、階層的な組織構造であることが多く、またそれぞれの部署が既得権を守るために、たとえ非効率で必要のない仕事であってもそれを手放そうとせずに、他の部署と対立をしたり、足を引っ張り合ったりして協調しないという悪しき風習が多くの会社で見られます。こんな状況では、たとえば、似たような仕事をそれぞれの部署でやっており、それを統一しようとしても、それぞれの部署で反発されてしまって、うまくいかなくなるのは自明なんですよね。

そうした状況に陥らず、効率のいい組織に改編していくためにまずしなければならないことは、なぜ従業員たちが保守化し、既得権を守ろうと非効率な状況を止めようとしないかを考えることです。
なぜ多くの従業員たちは、既得権にしがみつくのか。その答えは簡単です。この平成の間に、あまりに長時間労働と過度な仕事の押し付け、低賃金が当たり前となり、それが前提になり過ぎているために、多くの従業員たちはどうにか自分が最悪の状況に陥らないように、企業の中でイノベーションを起こすことよりも、自分を守ることに必死になっているからです。
ようするに、過度の仕事の押し付けと長時間労働と言うのは一種のババなんですよね。それを引かないために、より楽な仕事、感情労働や負のスパイラルに陥らないような仕事を探し、それを見つけたら手放さないように必死になるのです。
こうした状況を打開するために、経営者としては、簡単に、異動や部署の再編など力づくでどうにかその状況を変えようとします。ただ力づくで上から何かを変えようとしても、変わる訳がありません。そのそも従業員たちは、長時間労働、低賃金、多くの仕事を押し付けられること、あとは感情労働など極度に恐れているわけですから、どこに異動しようと、組織がいかに改編されようと、外に向かって何かをつくり出すというメンタルというよりも、とにかく自身を守ることが第一というメンタルに固執してしまうです。なので、そもそも従業員たちのそうしたメンタルそのものを変えて行かないと、いくら外側を変えたところで何も変わらないのです。

ではそうした状況を打破するために、企業は何をするべきなのか。それは、従業員から、まず過度な仕事の押し付けや長時間労働などの恐怖から解放することです。そうした意味で、働き方改革で残業時間を規制するのは正しい方向性だと思います。ただそれも、現場に放り出すだけでどうにかしろではまったく意味がありません。あくまで、経営者が主体となって、従業員に対して、過度な仕事の押し付けや長時間労働は会社としてしない、またそうした組織作りをしていく、ということを確約して、従業員にまずは信頼してもらうことが第一なのです。

と、そんなことを主張すると、人件費がかさみ、利益が減ってしまうと大反発する経営者がほとんどでしょう。でも、本当の意味でイノベーションを生み出すような改革をしたいのなら、痛みが伴うのは当然です。企業は、ただ人件費を減らすことだけでごまかしてはいけません。なぜなら、これだけの人手不足の時代の中で、人材を確保できない会社から潰れていくのはある種自明だからです。
人件費を減らしたいなら、従業員たちに適正な労働環境という担保を与えた上で、無駄な仕事を減らすべきです。そして、彼らに効率的な働き方をしてもらい、彼らに考える余裕を与えることで、初めて新しいイノベーションが生まれる土壌がようやく出来上がるのです。さらに次のステップとしては、彼らが自由な発想を出しやすいような環境、階層を出来る限りなくし、意見を言いやすい環境を作る必要があります。
残念ながら、多くの日本の企業は高度成長期以来の既得権にしがみつくことで精一杯で、革新的なイノベーションを生み出すことなど程遠い状況にあると思います。これから先、すでに現場にすべてを押し付けて人件費を減らすことだけではにっちもさっちも行きません。いかに、従業員に適正な労働環境や自由な発想を意見しやすい環境を与え、彼らに安心してもらい(終身雇用を安易に与えるという意味ではなく、ワークライフバランスがちゃんととれるという意味で)、イノベーションを作り出していくのか。それが出来る企業だけがこれからの時代生き残っていく企業になるのでしょう。

凝り固まった意識を変えていくことは容易ではありません。だからといって諦めて、ただ以前行われていたことを踏襲し続けてもじり貧になるだけです。今、この時代に何をするべきか。顧客だけでなく、働いている人たちが一体企業に対して何を求めているのか。まずはそこに耳をしっかりと傾け、都合よく解釈するのではなく、状況を打破するために身を削ってでも、するべきことをまずは見据える必要がありですね。