「すべては救済のために デニ・ムクウェゲ自伝」

「すべては救済のために デニ・ムクウェゲ自伝」
著 デニ・ムクウェゲ

2018年のノーベル平和賞を受賞したデニ・ムクウェゲ医師の自伝です。コンゴ民主共和国で戦渦の最中で何万人もの性暴力の被害女性を救ってきた産婦人科医の話なのですが、とても壮絶で、本当にノーベル平和賞とはこういう人にこそふさわしいと素直に思いました。
コンゴ民主共和国で産出される鉱物資源は武装勢力の資金源になっているため、これらの取引をアメリカをはじめとする多くの国が禁じているという話は、CSRを勉強している人なら、耳にしたことはきっとあると思います。
わたしも、話自体は知っていたのですが、この本を読んで実際にどんなことが行われていたのかを具体的に知りました。
現地では、女性に対する性暴力が単なる性的欲求を満たすためじゃなく、住民を支配するために行われるそうです。いわば、攻撃としてレイプという行為が行われているんですね。そして、レイプしただけでなく、被害女性の性器をナイフで切り刻んだり、銃で撃ったりと残虐行為が後を絶たないそうです。被害女性は、精神的に壊されただけでなく、女性としての機能や、また排尿、排便の機能を失うことも多く、こうした多くの女性が家族からも見放されているそうです。
ムクウェゲ医師とそのスタッフはこうした女性たちをどうにか少しでも救おうと日々奮闘しており、同時に自らも武装勢力や時には自国の政府からも脅されて、命を狙われているそうです。
この本を読み前までは、ノーベル平和賞という名を聴いただけで、正直どんな哲学的な思想を持った巨人なのかと思っていましたが、本を読めばわかるんですけれも、本当に普通の人なんです。この人。ただ一つ違うのは彼は善良であり、また困っている人を救おうという気持ちが人一倍強いという点です。
本来ならば、フランスで産婦人科医として生きる道もあったにも関わらず、危険な母国にわざわざ帰って、何度命を狙われようと、被害女性を救おうとしているということだけで、彼の勇気と人間性の素晴らしさが分かります。

多くの人に読んでほしい本ですね。そして、多くの人に知ってほしいです。今、この時にこそ、酷い扱いを受けている人たちがたくさんいるのだということを。