「尊厳の欲求と憤りの政治 IDENTITY」 著 フランシス・フクヤマ 

「尊厳の欲求と憤りの政治 IDENTITY」 
著 フランシス・フクヤマ 」

「歴史の終わり」で有名なフランシス・フクヤマの最新刊です。
歴史をいかにとらえるかという意味で納得が持てる話でした。
教科書での歴史は、基本的に政治を追います。それに加えてこの十数年ばかりで歴史を経済面から追う、つまり経済が動いて歴史が動くという説明がされることが多くなっています。そんな傾向に対して、この本では、歴史はアイデンティティと動くと言ってます。
つまり、個人や集団の承認要求や尊厳の要求で動くということですね。
本書では、IDENNTITYによっていかに政治や歴史が動かされてきたのかという検証から始まるのですが、とても丹念にわかりやすく説明されているので思わずうなずかざるを得ません。確かに、一般的に身近な人間の行動を見ていても、理屈や経済だけで説明できないことって多く、それをアイデンティティでとらえれば、なるほどって思うこと多いですからね。
本書の中で一番分かりやすい例だと思ったのは、最近の情勢で世界中で格差が拡大しているというのに、世界中で左翼が勢いづいているのではなく、右翼ポピュリストが台頭しているという事実。これは経済的な困窮よりも、各々が尊厳を求めているのだということが良く分かります。だから、原理主義的な宗教に結びついたり、移民排斥運動に繋がってしまうんですよね。自分たちこそはもっと認められてしかるべき人間であるのだと。
問題なのは、それが格差のあおりを食らっている市民だけでなく、いわゆる政治家や企業家などにもその手の考えの人物が台頭しているということ。
まあ、誰もが分かりやすい例は名声を求めるためだけに大統領になったと言わざるを得ない、アメリカのトランプ大統領なのですが、確かに世界中のリーダーが彼のようなタイプになってしまうと、何か本当に世界が大変なことになってしまうと簡単に想像が出来ます。
絶望的な気持ちにもなってしまうのですが。。。
ただアイデンティティという視点から、自らも含めて様々な人間関係や政治、歴史、経済などを考え直していくと、今後わかっていくことも多くなると思うし、それが何かの解決の糸口になるのかもしれません。
そういう意味では、本書は様々な問題の切り口を変えていくヒントになるのかもしれないので、多くの人に読んでもらいたいです。