「MAJOR 2nd」に見るスポーツ漫画・アニメの変化

コロナのおかげで妻の実家に帰省もすることも出来ず、年末年始は家で子どもたちとずっと子どもたちと過ごさざるを得ませんでした。
そんな中で、ハマってしまったのがNHK教育で一挙放送をやっていた「MAJOR 2nd」。
元々前のシーズンからチラホラと観たことがあったのですが、一挙に観ることでこの作品の先進性がよくわかり、同時にスポーツを扱った漫画やアニメも昔と随分変わったんだなと思いました。

スポーツを題材にした漫画・アニメというと、五十代の以上の人からすると、「巨人の星」や「あしたのジョー」「アタックNo1」「エースをねらえ」「ドカベン」あたりでしょう。
もう少し時代が下って出てくるのは、「タッチ」「キャプテン翼」「スラムダンク」あたりでしょうかね。
その後もどんどんと様々な作品が出てきて、「MAJOR」シリーズもその系譜の中にあるのですが、時代順に並べて見ると、明らかにその時代性がわかるんですよね。

いわゆる最初に出てきたスポーツ漫画・アニメのほとんどは、スポ根モノと呼ばれるジャンルに収まるものばかりです。
ようするに、主人公が苦難に耐えて耐えて耐えまくったあげくに強くなり、大成していくという話ですね。
時代がまだ戦争時代を引きずり、科学よりも精神論の方が圧倒的に大事だという話だったんだと思います。
1964年の東京オリンピックで活躍した「東洋の魔女」の影響もあったのかもしれません。

ただ日本が高度成長し、バブルの時代になって来ると、だんだんと精神論に対する疑問が出てきたのか、いわゆる根性で押し切ること自体が子どもたちにウケなくなります。
わたしもこの時代に子どもでしたので肌感覚にわかりますけれど、そりゃそうですよ、部活で理不尽な上下関係に晒されている中で、アニメや漫画まで理不尽な精神論を説かれても心には何も響きません。
ただ主人公たちがそれなりに努力をしてそれなりに大成をするというストーリー仕立ては昔とあまり変わりませんでした。
そして精神論の代わりに強調されるようになったのは、主人公たちを取り巻く友情や恋愛です。つまり人間関係の中で主人公が精神的にも技術的にも成長していくというのが描かれ始めていくようになったんですね。

あとこのころから、主人公を始め、登場人物に極端すぎるほどの特殊能力があったり、技があったりということが強調されるようにもなりました。
団塊世代ジュニアの頭数が多く、子どもたちがたくさんいたので、この時期はアニメも大量生産されていたんですね。
なので、分かりやすい能力や技をバーンと出すのが、子どもたちウケがよくトレンドになったというわけです。

そしてバブルが終わり、時代がさらに下ってくると、話に巧みに緩さが入るようになったり、主人公たちの性格や置かれている状況に工夫が置かれたりと大枠としてのストーリーテリングに大きな変化はないままにマイナーチェンジが繰り返されていきます。ただ特徴的なのはこの辺りの時期から少年マンガの舞台に女性漫画家が増え、スポーツ漫画にもチラホラと女性作家がチラホラと出始めてきたということです。「シュート!」を皮切りに「ホイッスル!」や「ハイキュー」などの名前が挙がりますね。
これらの作品で共通しているは女性作家らしく繊細な心情がそれぞれのキャラクターの中で描かれていることです。
武骨な世界を描く一方だった「巨人の星」や「あしたのジョー」の世界観とはだいぶ異なってきていますね。

そしてさらに時代が下って出てきたのが、「MAJOR 2nd」です。
この作品、言わずと知れたことですが、そもそも「MAJOR 2nd」は主人公大吾の父親を描いた「MAJOR」の続編です。
「MAJOR」という作品は、連載開始が1994年なので、野茂英雄がメジャーに行く前年です。
つまり主人公がメジャーに行くという話を、野茂以前に始めていたのですから、とても先見の明がある漫画だと言えるでしょう。
そして現実が野茂からイチロー、そして次々と日本人メジャーリーガーで出てきたことで、物語に妙にリアリティが与えられていくわけですね。
時期的にタイムリーだったのと、漫画そのもののクオリティの高さから単行本78巻まで続くというメガヒットになりました。
作品の内容は、一言で言えば、いい意味で王道中の王道という話といえるでしょう。
破天荒で能力値の高い主人公が弱小チームに自らを置くことで奮い立たせながらも成長していくという話です。
ただ主人公本人はメジャーリーガーまで上り詰めるのですが、すごいのが話が幼稚園から始まって、選手の晩年期まで描き切っているという点です。
なので当然、挫折もあれば栄光もある。
結果的に長期連載になったことで、わかりやすいサクセスストーリーというよりは、主人公の半生そのものを描いているんですよね。
だからこそ当然、野球だけのことじゃなく、家族などのこともしっかりと描き込まれているわけです。

そしてその前作の世界観をうまく受け継いでいるのが続編の「MAJOR 2nd」です。
面白いのが典型的な主人公キャラだった前作の父親と代わり、息子は体が小さく、野球の才能がそれほど恵まれていないという点です。
つまり能力のある人間ではなく、普通の子どもを描いているんです。
しかも父親が父親だけにそれが比較対象となって、主人公の普通っぷりが際立って見える。
そしてその普通の子どもが野球というスポーツに触れあっていくという中でどう成長していくのかが丹念に描かれています。
しかも、さらに特徴的なのは、野球に勤しむ女子選手たちの話にかなり話が割かれているという点。
中学編に至っては、チームの大半が女子であり、体の成長格差が現れ出て来ることに伴って、頑張っても男子に勝てなくなってくるという悩みがリアルに描き出されてきます。
まさに今でいう多様性の話ですね。
もはや女子の話だけでなく、ハーフの登場人物も当たり前のように出ているので、多様性が当たり前だということが前提に話が進んでいるんですね。

もちろん普通の子や男子と隔てられていく女子の話と言うのは今までもなかったわけじゃありません。
サッカー漫画の「ホイッスル!」などはまさにそういう話でした。
ただ「ホイッスル!」では女子の話は、小島有希という女子選手のキャラクターにまつわる周辺のエピソードに過ぎませんでしたし、ハーフの子も出ては着ましたが、これもまた相手チームにいただけの話でした。
でも「MAJOR 2nd」では、もはやこの多様性の話や普遍性の話が中心となっている。
そして、何よりも目を見張るのが、女性作家がこれを書いているのではなく、これまで少年マンガの王道を書いてきたベテランの男性人気作家がこれを書いているという点です。この点から見ても、明らかに時代が変わってきているんだなと思いますし、意義深さを感じます。
掲載誌が比較的スポ根の系譜とは一線を画していた「少年サンデー」であったという影響もあるでしょうが、この「MAJOR」から「MAJOR 2nd」の変化はすごいですね。
ちゃんと何が売れるのかとマーケティングだけを見るのではなく、今子どもたちにとって何が必要なのかを考えて描いているんだなというのがよく伝わってきました。
まだまだ連載中で、アニメも途中で終わってしまったので、そのうちに新しいシーズンが作られるのだと思いますが、次も観たいと思わせる内容ですね。

個人的には「MAJOR」と同じように人生の先の先まで「MAJOR 2nd」のキャラクターたちがどうなるのかを見てみたいです。
普通である主人公がどんな人生を歩むのか。男子との差に悩む野球女子たちが何を思い、どんな選択をしていくのか気になりますね。

そしてスポーツ漫画がこれを機にどんな風にまた時代とともに変わっていくのかが楽しみです。
大成することが目的というわけなく、また精神論だけを語られるのでもなく、だんだんとスポーツを通じて人間的な成長をいかに見せるのかということに焦点を置いていくことにシフトしているのはとてもいい進化の形ですね。

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