シュワルツェネッガーさんのスピーチから考える米社会分断回復の可能性

シュワルツェネッガーさん「全ては嘘から始まった」。議会襲撃とナチス重ねたスピーチが胸を打つ【全文】

シュワルツェネッガーさんのスピーチが話題になっています。

シュワルツェネッガーさんといえば、「ターミネーター」シリーズをはじめとしたアクションスターであり、元カリフォルニア州知事でありますが、これまでその出自に関してはあまり多くを語ってきませんでした。

せいぜい元々オーストリア出身のボディビルダーであり、アメリカに渡ってその訛りのある英語がむしろ新鮮味があるとされて売れたアメリカンドリームを体現するような人だというくらいです。

そのシュワルツェネッガーさんが自分の幼少期のことを語りました。それは第二次世界大戦直後のオーストリアの話であり、本人からすればあまり語りたくない類いの話です。

そもそもオーストリアが、ナチスドイツの台頭によってドイツと併合されたとき、ポーランドなどと違い、支持した住民も多かったんですよね。オーストリアは90%以上がドイツ系住民であり、またヒトラー自身が元々オーストリア出身とあって、受け入れやすいといえば、受け入れやすかったんだと思うんです。もっと時間がを遡れば同じ国だった時期もあった両国ですからね。

なのて第三帝国が崩壊したとき、ほかの占領国が解放されたと喜ぶ一方で、オーストリアの国民はドイツと同様に敗北感の強かったのでしょう。だからこそ、戦後直後のシュワルツェネッガーさんの子供時代、父親たちをはじめとする多くの大人たちが自己肯定感と目的を失って打ちひしがれ、妻や子供に暴力をすることが日常の光景となっていたのだと思います。熱狂が政治だけでなく人々までをも狂わせてしまった帰結です。

俳優として大成功を収めていたシュワルツェネッガーさんが突然政治家に転身したのは、間違いなく原風景にこの経験があったからだと思います。政治家として自分が幼少期に経験したような社会を作りたくなかったのでしょう。

そして社会分断がどうしょうもないところまできてしまった今のアメリカにおいて、シュワルツェネッガーさんは、幼少期に経験した光景を口にしました。あのときと今との人々の気持ちのあり方を重ね合わせ、人々に対して警鐘を鳴らしたのです。

重要なのは、シュワルツェネッガーさんが共和党員だという点です。同じ共和党員でありながら、トランプ大統領だけでなく、トランプ大統領を支持した共和党の議員までをも非難しているんですよね。

これは、もはや党派など関係なく各々が国や将来のことを考えなければならない、それほど今は社会分断が進み、危機であるのだということを訴えているのです。

そしてこれは共和党だけの問題ではありません。そもそもトランプ大統領を支持している人々は経済格差に怒りを感じているのです。そして今のグローバリゼーションを基軸とした経済格差は、民主党を支持するリベラルが口当たりのいいことをいいながらも推し進めてきたわけですからね。

リベラルもリベラルで、相手を批判するだけではなく、なぜこうなったのかをよく考えて、自分たちの過ちも認めなくてはいけないのです。社会分断はどちらかをやっつければ終わりではなく、双方が過ちを認めて力を合わせることでしか解決しないのですから。

シュワルツェネッガーさんはまず一歩を示しました。彼に続いて人々に影響を与えられる人々がまず勇気をもって意見が違う人と対話をする姿勢を作ってほしいです。自分の非を認めることと、相手を尊重すること。それをして初めてテーブルに着くことが出来るし、社会の分断を少しでも修復できるわけですからね。

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