「45歳定年」主張でわかる経営者が根強く抱く自己責任論

サントリー社長の「45歳定年発言」が炎上 会社員が“準備”しなければいけないこと

サントリーの新波社長が「45歳定年」主張で炎上しましたね。
その後、火消しの釈明をしましたが、発言を撤回しているわけでもなく、いまだに物議を醸し出しています。
経営する立場の人たちからすれば、新波さんの主張は大いに賛成出来るものでしょう。
それは現状多くの日本の大企業では、バブル期以上の中高年の給与が高すぎて、ここを何とか削りたいと内心で考えているからです。

新波さんの発言も、経営能力はおろか、ITスキルもない中高年に高い給与を与えるのは、会社にとって非生産的だという考えに基いてのものでしょう。
確かに日本企業における中高年には、勉強を続けることもなく、ただ長く会社にいるという事実だけで地位と給与がそこそこ上がってしまっている非生産的な人たちが多くいることは否めません。
しかしだからと言って、それをいきなり定年という形で切り捨て、役に立たなければ会社から放り出すという半ば脅しにも似た方で奮起を促すというのは、かなり話が一方的で暴力的ではないかと思います。

問題なのは、すでに旧来の日本の縦社会の在り方そのものがもはや時代遅れになっていることであり、必要なのは組織そのものの変革であって、人を切り捨てればいいということではないはずです。
そもそも経営している側の人たちが組織を生産的に変革できないことを棚に上げて、生産効率が悪いのを従業員だけのせいにして爪腹を切らせようというのは責任転嫁に他ならず、従業員を切ることでしか利益が上げられないというのなら、むしろその経営者こそが去るべきではないかと思います。

発言の炎上後、新波社長は、首を切るという意味ではなく、スタートアップ企業などへの再就職、つまりは人材が流動的に動く社会にするべきだということを訴えたかったのだと弁明していますが、これを聞いてもこの人が結局は社会全体のことではなく、自分たち経営する側の都合しか考えていないということがよくわかります。
普通に考えれば、スタートアップ企業に再就職出来るほどのスキルを持ち合わせている人などごくわずかだということは考えなくてもわかります。
45歳定年で困るのはこうしたスキルのある人たちではなく、その他大勢です。仮に今すぐ45歳定年制をやれば、多くの人は極端に保守的になり、放り出され再就職もままならない中高年が溢れます。再就職出来たとしても、その多くが得るのはスタートアップ企業どころか人手不足の低賃金の仕事ばかりでしょう。
そして失業率が上がり、治安が悪化し、格差がさらに拡大することは目に見えています。そうなれば景気はさらに悪くなり、商品も売れなくなって、ますます企業の生産効率が下がることは確実です。子供を持つことがリスクとなり、少子高齢化もより進むでしょう。企業の生産効率が、その商品やサービスを買ってくれる社会という受け皿が十分にある上で、初めて健全に上がっていくのだという基本的なことをこの人をはじめ、多くの経営者と呼ばれる人たちは忘れているのではないでしょうか?

そういう話をしたいんじゃない。自分は被雇用者それぞれ個人がよりスキルを上げて生産的になる必要があると言っているんだ。
新波さんはそう反論するかもしれません。
でも、それは都合の良い自己責任論に過ぎず、社内の個人の能力を高めたいのなら、まず会社の中で個人の能力が高められるような環境を作ることが先です。

従来通り、トップダウンで意思決定をし、人を教育するという社風がないどころか、人材育成に対する社内評価が低い状態で、能力の有無をすべて個人に帰するという考え方自体がもはや古臭い話なのです。
そこに気づかずに、出来ない奴は切ればいいというは、ナンセンスもいいところです。サントリーは、かねてからCSRの総合評価が高いことで有名な企業ですが、そうした企業のトップからこのような発言があったのは非常に残念ですね。