「情報と秩序 原子から経済までを動かす根本原理を求めて」 著 セザー・ヒダルゴ

「情報と秩序 原子から経済までを動かす根本原理を求めて」 
著 セザー・ヒダルゴ

世界の捉え方の感覚を根本から変えてくるほど、衝撃度の高い本でした。
世界が基本的に物理の法則の中で出来ていることは、現代人のもはや常識です。
しかし物理の法則とは、コーヒーにミルクを垂らすと次第に混ざった溶けていくかのごとく、基本的に秩序から無秩序に変化するものであり、そう考えると、物理の法則とは逆方向のベクトルに進んでいるものが少なからずあります。
その最も分かりやすいものの例として挙げられるのがこの地球上に生まれた文明です。
ビックバン以来、宇宙は「秩序⇒無秩序」の方向に進んでいるのに、地球上では「無秩序⇒秩序」という逆方向に進み、文明が発達しています。
なぜ物理の法則に反して、このようなことが起きえたのか、その原因となったものは何なのかが記されているのが本書です。

結論から先に言うと、「無秩序⇒秩序」の流れを作るのは、「情報」という話になります。
抽象的な概念であるはずの「情報」が物理の話の中でとらえられるという発想自体が驚きなんですが、言われてみると、確かに納得が出来る話なんですよね。

ではその「情報」とは何なのか、そもそも何をもって「情報」といい、いかにして発生するのかについて本は解き明かしてきます。
詳しいことは、ぜひ作品を読んでほしいのですが、まとめていうと、
・非平衡系における情報の自然的な発生(お風呂の水を流すときに現れる渦がイメージとしてわかりやすい)
・個体としての情報の蓄積
・物質の持つ計算能力
の三つが情報を成長させる基本的な物理メカニズムを説明する重要な概念とされています。

確かに「情報」を理屈で説明しようとするそういう話になりますね。
つまり情報は上記の三つの条件をあってこそ生まれ、物理的に具象化されるというわけなんですね。
そして、その具象化、つまりは想像を結晶化する能力こそが、人類とほかの種とを分ける特徴であり、この能力のお陰でこの惑星では「無秩序⇒秩序」という流れが出来ているという話なんです。

いやあ、何だか物理から哲学に飛んでいくような感じですね。

本書では、さらにこうして人類によって具象化されたモノが生み出す経済について話が広がっていきます。
ここでの詳しい話も興味のある人にはぜひ本書を読んでほしいのですが(難しい話のなので、ちゃんと本書を読んだ方がいい)、個人的には個人が生み出す「具象化」の能力には限界があり、いかに他社とのネットワークを結ぶ土壌があるかどうかで、それぞれの国の持つ経済力の差が説明できるという話は面白かったです。
つまり知識とノウハウをいかにもち、それを維持し、そしてそれを活用できるネットワークを広げることが出来るのか、という話なんですよね。

発展途上国の多くが家族を中心とした信用のネットワークを築いていないのに対し、先進国が多様で巨大なネットワークを作り上げているという話、つまり巨大なネットワークを持つからこそ、先進国が先進国たるゆえんの話だという説明には納得しました。

物的資本、人的資本、社会関係資本といった生産要素を持って経済成長を説明するこれまでのアプローチに加えて、経済複雑性指標を考慮に入れるという考え方も、こうした感覚で経済というものを考えたことがなかったので新鮮でしたね。

ちょっと人によってはとっつきにくい話の本ではあるのですけれども、決して理系の人じゃないと読めないという本でもないので、多くの人に読んでもらいたい本です。
閉塞的な経済状況にあるこの国おいても、この本のような考え方で「情報」や「経済」をとらえ直すことで見えて来ることもあると思うので、ぜひ専門外だからと敬遠しないで、手に持ってもらい本ですね。
それだけ価値があるユニークな発想が書かれている本だと思います。