「輝石の空」 著 N・K・ジェミシン

「輝石の空」 著 N・K・ジェミシン

「第五の季節」「オベリスクの門」に続く、「壊された地球シリーズ」の第三作目にして最終章ですね。
このシリーズの最大の特徴である圧倒的な世界観の謎をこの作品で一気に解き明かしていきます。
ここで明かされる世界観を最初にある程度考えた上で、第一作目から書いているのだと考えると、やっぱりすごい作り込み方をしていますね。

本作は、エッスンとその娘であるナッスン、そしてエッスンと旅を続けて来たホアの過去の話、という三つの視点における話を代わる代わる物語ることで構成されています。
複数の違う視点による話を交互に組み合わせて話を展開させるというのは、もはやこの作家の特徴ともいうべき点なのでしょうが、本作においてもそれは踏襲されているというわけですね。
ここまでくると、話も構成的に仕掛けてくるというよりは、いかにこの壮大な話をまとめにかかるのかというところに来ているので、正直あっと驚くような展開が最後に来て繰り広げられるわけではありません。
ただその世界観の精緻さは健在で、なぜ今目の前にあるこの世界がこうなったのかという事実をどんどんと明らかにして行ってくれます。
そういう意味では、これまで謎とされて来た設定のほとんどがキチンと回収されているので、「第五の季節」から読み進めてきた読者の多くが、大きなカタルシスを得ることが出来る仕組みになっていると思います。

ただ読み進めてみて、個人的に思ってしまったのか、物語の主人公であるナッスンにどうやっても感情移入しにくかったということ。
まだ幼く未熟であることを差し引いても、このキャラクターがどうしても好きになれず、彼女の動向に対してあまり関心が持てなかったんですよね。
これは、多分母親に対する拒否だけが前に来てしまい、それ以上の感情がほとんど描かれていないからだと思います。

ナッスンは、オロジェンであることを自覚していたわけですから、母親が何故に彼女に対してキツく当たっていたのか、その理由を何となくはわかっていたはずです。
それでも憎んでしまうというのはわかるのですが、そこはもっと可愛さ余って憎さ100倍というか、彼女なりに複雑な思いがあるはずだと思うんですよね。
単にシャファを引き合いに出して、母親を憎むのではなく、その複雑さを描いて欲しかったです。
全編を通じてエッスンに対して感情移入をしている読者としては、どうにもこういう感じでは、ナッスンの気持ちに立つというのが難しいんですよね。

ただテーマに対して、それを真摯に表現していくという姿勢は、最後の最後まで変わらず、これがあるからこそこの作品が評価されているだなということはよくわかります。
最後のホアがフルクラムによるオロジェンの管理を否定する中で、「何か別の方法があったんじゃないか」というセリフには痺れました。
そのまま現実世界のマイノリティ差別にも通ずる言葉ですからね。
たぶんこれをいいたいが故にこの作品を書いたんだなっていうことは伝わってきました。
非常に長いシリーズでしたが、読み応えは十分でしたね。