「今度は愛妻家」
2010年公開/日本
好きな人と一緒に観てください。ケビン・コスナー主演の「ボディーガード」のキャッチコピーなんですけれど、この「今度は愛妻家」という映画こそ、この言葉がぴったり合う作品だと思いました。
売れっ子の写真家だったものの、写真が撮れなくなった俊介を明るく世話してきた妻のさくらであったが、俊介の心無い言葉に次第に愛想を尽かしていく……。まず最初の三十分では、いつも言い合っている二人の姿がずっと描かれているのですが、そのシーンが無理にコメディっぽく作っているというか、上滑り感があり、痛々しさすら感じてしまう。 ちょっと一昔前に流行った軽妙なセリフで見せるドラマみたいな感じを今さら見せたいのかなと思ったのだけれど、でもこれが絶妙な計算なんですよね。
ネタバレになるのですが、実は一年前にさくらは死んでいます。つまり俊介はさくらの幽霊とずっと喋っていたわけで、それまで軽薄にしか見えてこなかった彼が、観客にその事実を知らされた途端に、急にしおらしく思えてきて、ついつい感情移入していってしまうです。
男の未練というか、まあ、そういう意味では男の人のための映画だとは思います。俊介がさくらの写真を撮るシーンや写真を現像するシーンは、彼の心象を感じるには絶妙なシーンで、見入ってしまいました。
面白かったのが、二人だけの話にせずに、若い男女と年老いたオカマを話に取り入れたことです。若い男女は言うまでもなく、俊介とさくらが成しえなかった愛情に対する鏡のようなものであり、彼らが結果として感じることが出来た愛情がやがてどうなるのか?の想像と俊介とさくらの顛末の現実を比べることによって、観ている人は、二人で居ること、ひいては愛するということをより深く考えることが出来るんですよね。
そしてもう一人初老のオカマを石橋蓮司が演じているわけなんだけれど、最初はちょっとわざとらしというか、やりすぎ感も感じてしまう。でも話をずっと見ていくうちに実はこのオカマの役柄こそ結構彩を与えていて、しかも彼が一体何者なのかがわかっていくと、彼の苦しみや繊細さがどんどんと見えてきて、彼の優しさが、絶望しかない結末に対して映画を救いに導いています。
ちょっとうるるとなってしまう映画でしたね。こういう映画を観た後は、普段の何気ない生活の中での、好きな人に対する一つ一つの言葉や態度を考えてしまいます。恋人同士や夫婦で喧嘩をしたときに、仲直りのキッカケになる映画かもしれませんね。