「三体」
著 劉慈欣
今や世界中で読まれているSF小説ですね。
アジア人作家の作品として、初めてヒューゴー賞を受賞した作品です。日本では、映画「天気の子」で主人公が劇中で読んでいた作品としても知られていますね。
これぞSFといった要素がリアリティの中で物語られていて、とても面白かったです。
エンターテイメント作品として読者を引っ張る仕掛けが随所にある一方で、ハードSFにありがちな理系の分かりにくさもほとんどなかったので、とても読みやすい作品でした。
不思議に思ったのは、中国人作家の作品なので舞台が紅衛兵の文化大革命の時代から始まるのですが、その世界観がとても新鮮なんですよね。
同じ内容で西洋人が西洋の世界観でこれを書いたら、多分、それなりには面白かったのかもしれないけれど、ここまで読まれる作品はならなかったように思われます。ていうか、ちょっと西洋の世界観はテーマ的に行きつくところまでいってしまった感があり、もはやどれもが似通った感じになりつつあるのですが、これをこれまであまり親しみがなかったような視点で語られるととても興味をそそられます。
経済的な躍進ととても、中国のSFへの進出も、この作品やあとはケン・リュウなどの登場でとても活発な感じになっていますが、これは大歓迎です。日本とはまた違った東洋的な視点で語られる作品をもっと見てみたいですね。
ただしょうがないことですけれど、作品を通じてどこか中国政府に対する配慮が見られたところは、ちょっと残念でした。
本来なら、こういった表現は政治とは独立するべき話なんでしょうけれど、これが今の中国で中国人作家が作品を作るための今のところの限界なのかもしれませんね。
個人的には、そういった配慮なしの生の叫び声をもっと訊きたいし、それこそが人類の宝になると思うのですが。
この「三体」という作品は、三部作の一作目だそうです。
続編も日本での出版が計画されているようなのでぜひ読みたいですね。
もちろんこの本だけでも十分完結しており、面白く読めるので未見の人で、とにかく面白いものを読みたい!と思っている人にはお勧めのSFです。
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