「未来の物語 チェルノブイリの祈り」 著 スベトラーナ・アレクシエービッチ

「未来の物語 チェルノブイリの祈り」 
著 スベトラーナ・アレクシエービッチ

ジャーナリストして唯一ノーベル文学賞をもらっている女性ジャーナリストのスベトラーナ・アレクシエービッチの名著です。
チェルノブイリを技術的な面から語るのではなく、あくまでそこに居合わせた、人生を狂わされた人たちの声をこれでもかというくらいに集めてまとめた本です。
この人の取材力はスゴイです。そして、取材力とは、会って話を訊くだけではなく、いかにその人たちに寄り添って彼らに信頼をしてもらい、そして普段は内に秘めていることを語ってもらえるか、です。そういった意味で、この人はそうした様々な人の声を聞くことに非常に長けている人なのだと思います。一冊読んだだけで、真のジャーナリストだということがわかりますね。
それにしても、広島・長崎の歴史を持ち、福島の原発事故を経験した日本人がいかにチェルノブイリの実態を知らないのかということを思い知らされます。
たぶん、日本人のほとんどはチェルノブイリがソ連のどこにあるのかも知らないのでしょうか?
かくいうわたしも、ウクライナにあることは知っていましたが、この本を読むまで被害の大半がその北側に面しているベラルーシ(当時は白ロシアと呼ばれていた)であることは恥ずかしながら知りませんでした。
当時は共産主義下のソ連で、情報がなかなか出てこなかったというせいもありませんが、たぶん都合の悪い恐ろしいことは人間、耳を塞ぎたくなってしまうのでしょう。
事故が起きたその日に駆けつけてひどい状態になって死んだ消防団員とその子供を流産した妻。4分の1もの国土が汚染され、奇形児が多く生まれることで皆が委縮し、出生率が大幅に下がっている現実。そして収束作業に当たったことで身体障碍者となってしまい、結婚や子供などの当たり前の幸せを得ることがなくなった多くの兵士たち。日本のメディアが報道しない情報がこの本には詰まっています。そして、避難を拒否し続けその場に居続けるお年寄りや、何も知らずに生まれ育ち、幼くして亡くなっていく子どもたちの声など胸を詰まらせるしかありません。
福島の原発事故が起きたとき、ヨーロッパの人たちが必要以上に恐れていた理由が良く分かります。彼らは、陸続きのチェルノブイリで何が起こったのかをよく知っていたんですね。そして、一歩間違えば、福島だけでなく、東日本のほとんどが汚染地域になる可能性があの事故にはあったのです。
広島・長崎・福島を経験しても尚、原発動かし続ける理由はどこにあるんですかね。
経済のことを主張したい人がいるのはわかりますけれども、それを主張する前に、すべての人たちにまずは読んでもらいたい本です。とてもつらい話ですが。