「悪の脳科学」
著 中野信子
藤子不二雄Aの名作漫画『笑ゥせぇるすまん』。わたしにとっては、子どもの頃にアニメで見て、おなじみの作品です。
あの「ハットリくん」や「怪物くん」を書いた人と同じ人物が、こんなブラックな話を書くとは、と最初に観た時に驚いたことを覚えています。
さて、本書ではこの『笑ゥせぇるすまん』の主人公である喪黒福造に焦点を当て、彼がなぜさまざまな手段を使って人を騙し、破滅に導いていくことが出来るのかを脳科学の観点から解き明かしていきます。
そして、わかるのが騙される人間の側にこそ、心の隙間があり、喪黒福造はそこにいとも簡単に入り込んでいくという事実。
単純に怖い話ですね。アニメを見ていた子どもの頃は、こんな簡単に騙されて……と思っていましたが、大人になって生きることに疲れ果てたり、矛盾にぶつかったり、能力の限界に直面したりすると、人は簡単に隙を作ってしまうものなんですよね。
そして、もっと怖いのがこの喪黒福造的な人物は現実の世界にはウヨウヨといること。
今ではサイコパスという言葉が定着してきましたが、人を騙すことに良心が痛まない人っていうのがある一定数いるのです。
10年くらい前に「蛇の人」という映画がありましたが、西島秀俊演じる主人公は、今言われれば確かに喪黒福造に似ています。さすがに喪黒福造ほどは酷くはありませんが、人の心のスキを突くようなことを言って、結果その人の微妙に不幸にしている、そしてそれに対して良心の呵責を持っていないという点は同じです。微妙な不幸に陥っているというのが逆にリアルで怖いですね。しかもそういう人って確かにいるって思わせるのも怖いです。
本書のような本は、そうした人を騙す人たちの手本になりえますが、逆に言えば、予防するための本にもなります。大事なのは、自分は大丈夫だとは思わないことですね。誰にでも間違いなく心の隙間はありますからね。
個人的には、我慢をして生活をしている人ほど、騙されやすいという話に妙に納得しました。
漫画版でちゃんと『笑ゥせぇるすまん』を読み返したいと思います。