「大分断 教育がもたらす新たな階級化社会」
著 エマニュエル・トッド
とても興味深い本でした。本の副題通りに教育が新たな階級化社会を生み出してしまっているということを主張している本なのですが、その通りだと思います。
ほとんどの国のエリート校には、莫大な投資とそれなりの文化資本がなければそもそも入学できず、そしてエリート校を卒業した人々が政治経済の中枢を牛耳っている。つまり既得権益を持つ人間たちの自己保全である世襲がそれぞれの国を、そして世界をおかしな方向に向かわせているというわけですね。
実際、ハーバード大の年間の学費は一千万円近く、それでいて、莫大な寄付金を払えば入学できてしまいますし、日本でも東大に入学した子どもの家庭の世帯年収は、平均よりもずっと上です。
そして問題なのは、世襲そのものだけでなく、こうした分断が富める者とそうじゃない者の存在をそれぞれ見えにくくしてしまっているという点なんですよね。
すべてとは言いませんが、日本でもアメリカでも多くのヨーロッパの国でも、エリートたちは初等教育や中等教育の時点で、いわゆる公立の学校には行かず、裕福な家庭の子弟が集まる私立の学校に通います。優秀な公立や国立のケースもありますが、そもそもそうした学校に行けるほどの学力はそれなりに投資と文化資本を受けた子どもしか受験を勝ち抜けることは困難です。
すると、もはやこうした世襲の中にある子どもたちは、身近に裕福じゃない子どもとほとんど接することもなく大人になっていき、大抵は力を持つ人間になって行ってしまうんですよね。そんな人たちが、社会全体の機会均等や平等を謳った政治や経済活動を行うか?と考えたら、答えはおのずと出ますよね。。。
悪気はなくとも、彼らは彼らの身の回りの保全をまず考えるでしょうし、世の中とはそういうものだと自分たちを自己肯定し、そして自分たちの子どもを自分たちと同じ道に進ませるでしょう。
子どもに教育を与えること自体は悪いことではないのですが、問題は機会が全然均等じゃないという点であり、金持ちたちが金持ちだけのサークルに子どもの頃から入ってしまうという点なんです。
かつてジョン・ロールズが「正義論」の中で、機会を与えられた人は、それを充分に意識した上で社会にその力を還元するべきだと言っていましたが、本来ならばエリートたちの良心に期待したいところです。ただあまりにこうした社会分断が大きくなってしまい、またグローバリゼーションが話をややこしくしている上に、差別をも助長しているので、局面としてはとても難しい状況にあることは間違いなさそうです。
実際、こうした大分断を前提として、トランプ大統領の当選があり、ブレグジットがあるわけですからね。
個人的には、こうした社会格差にあって、アメリカ、イギリス、フランスと、個人主義と核家族が進んでいる国ほど分断が激しく、対立がどうしょうもないところまで来ているのに対し、日本とドイツの家父長制が強い国々は、それを受け入れている節があるという著者の説明には納得が出来ました。
またブレグジットに賛成する著者の考えとして、保護貿易そのものは悪ではなく、グローバリゼーションそのものが一部のエリートの利益にしかなっていないのだから、それをうまく使うべきだという主張にも納得する点があってなかなか勉強になりました。