2020年/日本
久しぶりにジブリの作品がお目見えしましたね。監督は「コクリコ坂から」「山賊の娘 ローニャ」の宮﨑吾朗さん。企画は巨匠の宮﨑駿監督。
そして原作は、「ハウルの動く城」のダイアナ・ウィン・ジョーンズですね。まさに名前だけ聞くとジブリ感たっぷりです。
物語は、魔女の娘であるアーヤが孤児院で育つところから始まり、奇妙な家に引き取られることで展開を見せます。
まあ、ようするに虐待の話なんですけれども、面白いのがアーヤも負けていない点。色々と策謀を巡らせて対抗していきます。
主人公が巧みに嘘をつき人を操るという、要約するととんでもない悪い奴に聞こえるのですが、それをうまく観ている側に反感を抱かせることなく描いていると思います。
これはキャラに尽き抜け感があるからと、コミカルさを絶妙に取り入れているからですね。
これまでのジブリのキャラクターでは、脇役にこうしたキャラはほとんど見受けられません。これを主人公として描き切ったところに宮﨑吾朗さんのクリエーターとしてのステップアップと個性が観られた感じがしました。
主人公と対する魔女と魔法使いに関しても、ただの嫌な奴ではなく、それぞれの個性を描くことで、そこまで嫌なキャラクターに見せない。
本当にキャラの描き方はエンターテイメントとして誰が見てもよく描けているなと思いました。
物語に関しても、絶えず飽きさせない展開で、またフル3DCGの映像もとても綺麗で技術的にも観れるところがたくさんありましたね。
ていうか、ここまで出来るんなら、宮﨑駿監督の「君たちはどう生きるか」の後もジブリには作品を継続してつくって行ってほしいですね。もはやジブリは文化遺産みたいなものですからね。技術を継承していってほしいです。
さて作品の話に戻りますが、2点ちょっと惜しいなぁと思ったところがありました。
一つは、作品が虐待に対抗する子どもに焦点が当てられ、その虐待のシステムが家父長制に基づいているところまで描かれていますが、アーヤがやっつけられるのは、魔女までで、一番力を持つマンドレークについては気持ちをほだすところまでに限られます。原作がどう描かれているかはわからないのですが、ここで家父長制にまで踏み込まないというところにどうしてもモヤモヤ感が残ったしまうんですよね。何かマンドレーク自身をやり込めて彼が自分の暴力性に気づくようなエピソードがあった方がよかったかなと。
あとアーヤのお母さんがベラとマンドレークと以前バンドを組んでいたという設定ですが……、これは今回の映像化で付け足した話のようですが、付け足すならとってつけたような形じゃなく、しっかりと物語に編み込ませるような形で付け足して欲しかったです。
ロックを物語に加えることで彩りを加えられたのはよかったのですが、これが加わることで、このお母さんがなんで逃げているのかとか、12人の魔女とはなんなのかとか色々と考えてしまい、そもそもこの物語が一話で完結する話なのか、続編があることを前提としているのか、観ている側からすればかなり迷わされてしまうんですよね。最後もお母さんは自分の問題を解決できたのかどうかよくわからないですしね…
これを入れるなら、アーヤはお母さんの風貌を最初から知っていて、お母さんがなぜ逃げたのか、そしてどうすれば自分を迎えに来れるのかをちゃんと入れ込んだ方が見ている方としてはスキッリしたのかなと思います。
まあ、でも何にせよ。久しぶりにジブリの新作と観れて本当によかったです。
どんな形にしてもぜひまた続けて行ってほしいですね。
関連記事
日本歴代興行収入1位はなぜ「千と千尋の神隠し」なのか?
人はなぜジブリ作品に共感するのか。宮﨑駿の「ドーラの法則」