「ビューテヒフル」
2010年/メキシコ
「バベル」や「21g」のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが監督し、ハビエル・バルデムが主演をした映画です。
話の筋そのものは至って単純で、ようする癌により余命宣告を受けた主人公が、幼い子ども2人を残して、なかなか自らの死を受け入れられないというものです。
映画を観ていてすぐにわかるのは、ものすごくリアリティがある映像だということ。
いかに差し迫った現実を描き出すかに重きを置いていて、だからこそ筋そのものをそこまで複雑なものにしていないということが非常によくわかりますね。
それにしても死が迫る主人公に対して解決されない問題の山積み感が半端ないですね。
一番は子どものことでしょうけど、妻が躁鬱病を患っている上に、下の子どもへの虐待してしまうので頼れない。
しかも兄は遊び人で主人公の妻と肉体関係を結んではしまうほどです。
さらに仕事の上でも、主人公は不法滞在者たちの面倒も見なければならない。
どうやってそれを解決していくのかと観ているわたしたちがドキドキさせられる一方で、話は淡々と進みます。
さらに暖房機器のエピソードなどが加わり絶望的な状況に拍車がかかっていくのですが、話はどうしょうもなくなるばかりです。
目を引くリアリティな映像に引き込まれていく中で、にっちもさっちもいかない現実だけが重くのしかかっていくんですね。
ここからはネタバレになりますが、結局主人公にのしかかる現実問題は何も解決されません。
ここまできて、ものごとを解決させることにこの映画のテーマのではなく、解決出来ない問題は主人公が死んだとしても山ほどあることが現実であり、遺された人々は嫌でもそれに直面していかなければならないというのがテーマになっていることがわかります。
「ビューティフル」という題名の意味もなんとなく分かってきますね。
観光地として有名なバルセロナを舞台にしながら、この映画は一貫してバルセロナの暗部を映し続けています。
そこにあるのは、どうしょうもないくらいの格差や腐敗であり、それに対して誰もが解決する術など知りません。
でも、そこには間違いなく人が生きており、彼らは彼らなりに懸命にもがいているのです。
死ぬまで彼らは、自分の前に横たわる問題を解決することは、おそらく出来ないでしょう。
でも、それでも彼らが生きる姿は「美しい」のです。ほんの些細なことかもしれませんが、彼らが生きた証はなんらかの形で受け継がれていくのです。
単純なストーリーでありながらも、この映画はそこを描きたいが故に主人公の身の回りをこれでもかってほど細密にそして丁寧に描いているんですよね。
イニャリトゥ監督の演出も見事ですが、それに応えるハビエル・バルデムも縁起も見事です。
現実を描かなきゃいけない映画で、まるで現実にいる人物のように演じていますからね。
納得のカンヌ主演男優賞です。