「新黒沢 最強伝説」 著 福本伸行

「新黒沢 最強伝説」 
著 福本伸行

「最強伝説 黒沢」の続編ですね。
前作が主人公の黒沢の死が連想される中で終わるのですが、本作では昏睡状態であった黒沢が8年間の眠りから覚めるところで始まります。

そもそも前作がギャグマンガでありながら、読んでいるうちにどこか哲学的は話になっていく不思議な作品ですが、その傾向は本作でも受け継がれています。
前作で黒沢そのものが半ば悟りを開くような形で終わっているので、黒沢自体ある意味成長しきった感が、ありそこからどう話を続けるのか興味が非常にありました。
黒沢が以前働いていた工事会社に戻るのではなく、ホームレスになっていくという展開に、まずは驚かされましたが、本当に驚かされたのは、話の半分以上を占める恋之助編からでした。

正直、この話が最後まで長く続くとは考えなかったのですが、最後まで読んでみて正直震えましたよ。
こんな心を揺さぶられるような終わり方をする漫画があるのかと。
連載漫画って、だいたい最初は面白くても尻切れトンボで終わることが多いんですよね。
でも、この漫画は最後の最後にこの作者の言いたいことが詰まっていて、かなり心打たれました。

ここからはネタバレになるので、読んだ人だげが読んでほしんですけれども、衝撃を受けたのは最後の方って、主人公の黒沢がもはや回想でしか出てこないんですよね。
彼の生死が分からない状態がずっと続くわけなんですが、実はここで、なぜこの作品の続編が作られたのか、その意味がじわじわと伝わってきます。

ようするに考え抜いた黒沢の気持ちが伝わったことを福本さんは描きたかったんですよね。
読んでいる人の多くは、黒沢に命を助けられたことによって、劇的に人間的に成長した恋之助を目の当たりにすることで、猛烈なカタルシスを感じます。
どんなに哲学的に突き詰めて、自分一人が悟ったとしても、その気持ちが人に伝わり、いい意味で人にいい影響を与えなければ、それでおしまいです。
でも、この漫画は最後に、人に気持ちが伝わることのすばらしさを見事に描いているんですよね。

あれほど、どうしょうもない人間であり、読んでいる人の多くがしょうもない人間と思っていた恋之助をいつの間にか滅茶苦茶応援している。
物語の途中でその成長によってここまで評価が一変する人も珍しいんじゃないでしょうか。
確かに恋之助は無駄に長いと思う人が多いかもしれませんが、それもこのラストの伏線と考えれば、何となく納得もしてしまいます。

最強伝説の最強の意味、つまり「強い」ということの意味が最後に恋之助によって語られるのもいいですね。
彼が最後に自分で考えて、自分の言葉で語ることに意味があるんです。
何か、中年男性の話をずっと書いておきながらも、最後は若い人への応援歌になっており、最終的にみんなを励ます漫画になっている。
それでいて、ギャグマンガとしても面白いわけですから、これは傑作だと思います。

わたしにも小さな黒沢がしっかりと入りましたよ。