「第五の季節」 著 N・K・ジェミシン
N・K・ジェミシンの三部作なる大作の一作目の作品です。
本作を含め、三部作すべてでヒューゴー賞を三年連続で受賞しているので、SF小説ファンとしてはかかせない作品ですね。
さて、本作についてなんですが、まず読んでみて気づくのが、世界観がほぼ作者の想像によって作られている、つまりフルスクラッチの世界観で作られているという点です。
気補填的にSF小説の多くは想像の産物なので、世界観を作者の思う通りにどんどのと広げていくものなんですけれども、大抵の場合は、現代の人間社会のありようがベースにあって、それを改良するような形でその小説世界を作って行くというのが多いと思います。
もちろん、本作でも主人公が人間ですし、人の生活の営みを中心に描かれることには変わらないのですが、ただベースとなる部分、つまり、社会制度だとか、技術的進歩であるとか言った点まで、本作では作者がその想像力よって細かく作り上げているので、非常に読みごたえはありますね。
正直、自分自身がそこで描かれている世界観になじむまである程度の時間を要するので、そこまでに嫌になってしまう人も出て来るのではないかとは思うのですが、その世界観に馴染んでいくと、ページ数の多い作品なのですが、どんどんと読み進めていくことが出来る作品だと思います。
まあ、科学小説というよりはファンタジーに近い作品だとは思いますが、それでもここで語られる世界をその歴史も含めてとんでもないくらいに緻密に設定しているので、それに浸るだけでも非常に楽しめますね。
物語は、世界の終りの物語と題されて、数百年ごとに「第五の季節」と呼ばれる天変地異が勃発するという設定を軸に語られるのですが、その世界観はさることながら、この作品は構成の巧みさでも読ませてくれます。
中年女性のエッスンが主人公である話と、若い女性サイアナイトが主人公である話、そして少女ダマヤが主人公である話の三つです。
読んだ人は分かると思いますが、面白いのが、実は違う三人の話と見せかけて、名前が時代時代で変わっているだけで、主人公が一緒であったという点です。
実はこれ、読んでいる最中で、「もしかしてそんなんじゃないか?」と思わせるのですが、そう思わせながらも、「じゃあ、どうやってこれらの話を繋げるのか」という疑問を読者によってもたせることで、どんどんと読み進めていけるように作られているので、構成術としてはとても巧みなやり方だと思います。
個人的には、個人の歴史をバラバラに負わせることで、その特異な世界観を深掘りし、リアリティがあるように描ているので、構成術によって世界観の描写の補填をしているという意味では、こういうやり方もあるのだなと参考になりました。
物語のないようとしては、「オロジェン」といういわゆる特殊能力を持つ人の設定が面白かったです。
特殊能力があるというだけでは、「へえ、そうなんだ」で終わってしまうのですが、この人たちが差別の対象となっているという設定は唸らされました。
しかも主人公自身その「オロジェン」であり、差別される側の視点によって物語を形作っているので、話そのものが単なるファンタジーではなく、非常に重厚でテーマ性のあるものと鳴っているんですね。
読み終えて、不満と言えば、これだけ分厚い本を読んだ上で、一冊の本としてのまとまりを欠き、解決できていない部分が第二部、第三部へと引き継がれてしまっている点ですかね。
そういった意味では、同じ三部作としてすぐに頭に浮かぶ「三体シリーズ」やわたしが大好きな「時間封鎖シリーズ」の方が、一つ一つの話について、ある程度のカタルシスをもってまとめてくれたので、物語としては親切出会ったかなと思いました。
ただこれだけ未完であるという印象を醸し出しながらも、ヒューゴー賞を獲ってしまうというのは、それだけSF小説にとって一番の肝である世界観の作り方が圧倒的であったというところでしょう。
とりあえず第一作目を読みましたが、これは第二部、第三部と気になって観てしまいますからね。
そういった意味では、わたしも作者と出版社に術中にハマっています。