「歌われなかった海賊へ」 著 逢坂冬馬

「歌われなかった海賊へ」 

著 逢坂冬馬

デビュー作の「同志少女よ、敵を撃て!」で一気にスターダムへ駆け上がった逢坂冬馬さんの作品ですね。

舞台は第二次世界大戦末期のドイツで、ナチスに反発する、エーデルヴァイス海賊団を名乗る青年たちを描いています。

エーデルヴァイス海賊団は、ヒトラーユーゲントに対抗するために実在した組織なのですが、各地で様々に現れ、それぞれがそう名乗っていたんですね。

この作品でも、主人公たちとは別のグループにも同じ名前を名乗る少女たちが現れます。

面白いのが、行動している若者たちの多くは崇高な大義があるわけではなく、ナチスによる束縛がとにかく嫌だからと、もっと自由にしていたいからという理由で行動を起こしている点です。

自由であるということが、いかに大切で幸せであるのかということがこれだけでもよく分かりますね。

どうしても戦争を題材にした話は大きな話にまとめられがちなのですが、こういう一市民の視点に立った話は興味深く、自分ごととして想像しやすいです。

正直あまり知らない歴史だったので、単純に歴史を知るという上でも楽しめました。

これまでナチス関連の映画や小説など色々なものを目にしてきましたが、記憶している限り、彼らを題材にした物語は見たことないですもんね。

「同志少女よ、敵を撃て!」でも思ったんですが、逢坂さんの歴史考察は非常に緻密で、しっかりとした下地を強いているが故にリアリティをもって物語に没入することが出来ますね。

またこの作品では、テーマが明確に描かれているので、どんどんと迷うことなく読み進められますし、読んだ後に読み切ったという満足感が得られました。

本作では、罪を傍観している人たちには、罪があるのかということをテーマにしていますが、普遍的なテーマであるが故に、ひしひしと物語が語ることの意味を考えることが出来ましたね。

ドイツを舞台にした話ですけれども、もちろん似た話は日本にもあるわけで、特に第二次世界大戦の頃の話は、かなり被っているものがありますからね。

ただ同じテーマで、日本を舞台にした話を読んでみたいと思わず思ってしまいましたが、それは色々と言い出す人が出て来そうなので、ちょっと難しいのかなと思いました。

日本人がドイツを舞台にしているからこそ、書けたテーマであるかもしれませんね。

個人的には、逢坂さんがこれからも海外を舞台に小説を書いていくのか、日本を舞台にしたものも書いてくれるのか、ちょっと楽しみです。

これから追いかけていきたい作家さんの一人ですね。