「物語 東ドイツの歴史 分断国家の挑戦と挫折」 著 河合信晴

「物語 東ドイツの歴史 分断国家の挑戦と挫折」 

著 河合信晴

東ドイツのイメージと言えば、やはりベルリンの壁であり、1989年の壁崩壊によって西ドイツに吸収される形で東西ドイツが統一したという話ばかりがどうしてもフューチャーされてしまいます。

本書では東ドイツがどのように建国され、どのように国として成り立っていったのか、西側主観に拠らず、客観的に書かれているので非常に勉強になりました。

完全に分断されるまでそれなりに時間を擁しており、また分断後も世界に国として認められるまでに時間がかかっていることは、詳しくは知りませんでした。

またソ連の影響下に強く置かれていたことは想像していましたが、だんだんとソ連との距離が離れていき、それが西ドイツに近づく切っ掛けになっていた点は興味深かったです。

また東ドイツといえば、諜報組織のシュタージが有名ですが、ソ連統治下からソ連が離れて行くにしたがって、その社会主義が変遷していき、シュタージの在り方も変わっていった点が客観的に描かれているのでそのあたりの空気感が非常によくわかりました。

ベルリンの壁崩壊後も、すぐに西ドイツと統一できたイメージがありましたが、経済面での統合で紆余曲折があったことなど知らなかったので面白かったです。

個人的に最も衝撃を受けたのは、東ドイツ国民にとって統一されたことがすべての面でよかったわけではなかったということ。

自由を求めていたものの、共産主義的な福祉が自由経済の中では失われるということ、それによって失業などの社会不安が増大することを東ドイツの多くの人々がわかっていなかったというのはなるほどと思いましたし、消費社会への変化によって、物不足の中で培われていた人と人との繋がりが薄れていってしまったという話は、非常に面白かったです。