「ネガティブ・ケイパビリティで生きる 答えを急がず立ち止まる力」 著 谷川嘉浩/朱喜哲/杉谷和哉

「ネガティブ・ケイパビリティで生きる 答えを急がず立ち止まる力」 

著 谷川嘉浩/朱喜哲/杉谷和哉

今の時代に必要な本だと思います。

陰謀論が渦巻き、もはや政治がわかりやすく煽られたポピュリズムに毒されている中で、何をどうすればいいのか、示唆を与えてくれる本です。

世界中で極右勢力が台頭しているムーブメントの中で昨今は日本も例外ではなくなってきました。

扇動者たちの言説で共通しているのは、もはやそれがファクトであるかは問題なく、自分たちの主張をわかりやすくミーム化することで相反する考え方をする人たちを攻撃し、相手を黙らせることで自分たちが優位に立つというやり方です。

アテンションを用いた手法やネットによるアルゴリズムがこの風潮を助長しているわけですね。

そしてこれがいわゆる一部の右派や保守勢力だけが仕掛けているわけではなく、カウンターで攻撃を仕掛けられた側も同じようなやり方で対抗し始める人が出てくるのでもはや混乱しかしないという話になってきます。

ここに最初にトランプ氏が米大統領選に当選したときにロシアが密かに介入していたように、外国勢力による扇動も加わるので、全くもって民主主義が機能しなくなってきているのですね。

これをどうにかするには、とにかくファクトチェックをして何が本当なのかを見極めていくしかないのですが、残念ながらあまりに情報量が多過ぎる上に、皆が皆そんなことが出来るわけではないので、有効な手段にはなっていません。

こうした絶望的な状況下において、この本が提唱しているのがネガティブ・ケイパビリティという考え方です。

ネガティブ・ケイパビリティとは副題にあるように、ようするに答えを急がずに立ち止まって手探りで誰かと考えていこうという考え方です。

扇動者に言われるがままの言説に流されるのではなく、まずはあれこれと考えてみて、それでも答えが出なければ、分からないままに積極的に先送りにしていこうというわけですね。

これは、分からないからいいやと諦めるのではなく、考えながら待つということです。

目に鱗の話であったのが、この際に大事であるのが自分を手放さないということです。

これは自分の考えに固執しろというわけではありません。

むしろ自分の考えを他人と対話することによって柔軟に変えていくために、自分が何者であり、何を考え社会に対して何をしたいのか、そこの部分をしっかりと持つべきで、自分がどんな組織に所属しても、またどんなに勢いのある扇動者の言説に触れても、自らを成す部分を手放さない上で、様々な言葉を判断するべきだということです。

つまりは、扇動者の言葉やネット上のアルゴリズムに対抗するには、受け手そのものが簡単に流されない自分を作るということが大事であるわけですね。

そして自分を作る上で、ネガティブ・ケイパビリティという姿勢を意識すること、自分の中に「間」のようなものを持つことが有効なのだという話です。

この自分を作るという仮定の中で、個人的になるほどと思ったのは、意識的に自分を複数のグループに置くというやり方です。

孤独な人ほど極端な思想や言説に流されやすいというのは、もはや想像しやすい話でしょう。

自分を簡単に手放さないためにも、職場でも家庭でも学校でも、とにかくどこでもいいからグループの中に身を置き、プライベートの中で様々な人と対話をすることで、自分の「間」を持ち、自分の考え方を磨き上げていくことが大事だという話ですね。

そして最初からポジショナリーを明示した上でイエスかノーかを語り合うのではなく、例えば雑談のようなものから入っていく。そういうやり方があったほうがいいなと思いました。

混沌とした時代の中で、この本は具体的に何をすればいいのかを教えてくれる本ではありません。

でもどう考えればいいのか、その思考方法を教えてくれる本です。

出来るだけ多くの人に読んでもらいたい本です。