「ミノタウルスの皿」

「ミノタウルスの皿」
藤子不二雄

「ドラえもん」や「パーマン」で知られる巨匠藤子F不二雄の作家人生でターニングポウントとなった言われる短編ですね。
当時連載終了が続き落ち込んでいた藤子F不二雄に、大人向けの漫画誌「ビックコミック」から依頼が来るんですよね。
一度はずっと子供向けの作品を書いてきたからという理由で藤子F不二雄は断るのですが、編集長の熱意ある説得を受けて応じたのがこの作品です。

ネタバレになりますが、まずは作品を紹介します。

事故で地球によく似た惑星に主人公が不時着するところから始まるのですが、そこは牛に似た種族が支配する世界で、逆に人間に似た種族を家畜として育てています。
主人公は初めこそ家畜として扱われますが、のちにほかの文明から来たということがわかり、支配種族と同等に扱われます。
しかし、主人公が戸惑うのは、人間に似た種族が家畜として食べられる運命にあるということ。
特に主人公が恋をした美しく気立てのいいミノアという少女が家畜の中でも特に育ちの良い食用種で、最高級の食材「ミノタウロスの皿」に選ばれ、民衆の祭典で食べられる運命にあると知り、愕然とするのです。
主人公は喜んで食べられようとするミノアを助け出そうと説得に奔走するが、彼女にも高官にもまるで話が通用しない。猶予が無くなり、光線銃を片手に強行手段を取ろうとするものの結局は救出できず、迎えの宇宙船に乗り込んだ主人公は、ミノアのその後を想像して泣きながらステーキを食べる。

一言で言って、常識とは何かということを問いかけてくる作品ですね。
人間である私たちにとっては、もちろん主人公の気持ちはわかります。
おかしいのは、牛に似た種族であり、彼らは野蛮で、人間に似た種族を、しかもあんなに美しいミノアを食べるなんてとんでもない話だと。
でも、これを牛の側から見れば、全部がひっくり返るんですよね。
わたしたちは当たり前のように牛を家畜として育て、その肉を大量に生産して食べているのです。
牛からしてみたら、これほど残虐で野蛮な話はないですよね。

何が野蛮で、何が常識か。それらはすべて概念に過ぎず、主体が誰かによっては簡単に変わる話であるんですよね。
短い作品ですが、モヤモヤとしたざわつきを心に残す優れた作品です。
ずっと子供向けの作品を描いていた人が、いきなりこれだけ哲学的でクオリティの高い作品を描ける。
才能とは恐ろしいですね。

藤子F不二雄はこの作品の評判に自信を得て、この後大人向けの漫画も長期にわたって発表していくことになります。
個人的には不可思議で、かつ考えさせられるこれらの作品群が大好きです。
藤子F不二雄=「ドラえもん」や「パーマン」しか知らない人にもぜひ手に取って読んでもらいたいですね。

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作品の背景