社会をより良くするための言葉として昨今しきりに叫ばれている言葉の一つに“CSR”という言葉があります。
すでに2000年代の中ごろから日本でも大企業や外資系の企業を中心にCSRの担当部署や係が出来始め、ここ数年は急激にその数も増えているので、ビジネスシーンでこのアルファベットの略語を聞いたことがある人や目にしたことのある人は結構いると思います。
ただまだまだ一般的な認知度は低く、日常会話でこの言葉を出しても、?マークを三つくらい並べた顔をされるか、理解されないが故に流されてしまうことが多いのではないでしょうか。
たまたまCSR関連の部署に配属された人か、いわゆる社会貢献に対する意識が高い人の間でしか飛び交わない言葉……年々多くの企業で浸透していってはいるものの、現在の日本ではCSRの社会的な立ち位置はまだまだそんなところでしょうかね。
なので、まずはこのCSRという言葉の意味するところを出来る限り誰にでも分かるように説明するところから始めたいと思います。
CSRは、corporate social responsibility の略になります。直訳すると“企業の社会的責任”という意味になりますが、ただこれだけではあまりにも漠然とし過ぎていてよく分かりません。
CSR検定公式テキストの力を借りて、もう少し意訳してみると、“企業の社会的対応力”ということになります。つまり企業を取り巻く様々なステークホルダー(利害関係者)に対して、企業がちゃんと対応するべきだということですね。
ここでステークホルダー(利害関係者)という言葉が出てきましたが、これは企業にとっての株主や直接的な顧客だけを指しているわけではありません。ステークホルダー(利害関係者)とは、具体的には株主、顧客、消費者、従業員、取引先、政府・行政機関、金融機関、債権者、競合企業、地域社会、NGO/NPOなど、企業に対して「影響を与える」または「影響を受ける」すべての存在を指しています。
ようするに、企業は自社の利益のことだけを考えればいいわけじゃなく、自分たちを取り巻く社会環境に対しても、きちんと対応し、具体的な取り組みをするべきだというのがCSRというわけです。
ただしこれだけ聞くと、企業だけが一方的に損をし、慈善事業を強いられているようにも聞こえますが、決してそうではありません。それは企業はCSRに取り組むことによって企業としての価値を高めることが出来るからです。
これはちょっと想像してみれば分かることですが、例えば物を買う時に、原材料の仕入れ先に対して児童労働など不法な労働をさせていないかをちゃんとチェックしている会社の商品と、そうじゃない商品のどちらを選ぶのか、また優秀な人材が就職活動をするときに、社員の健康や人生に出来る限り気遣っている会社と、とにかくブラックに働かせる会社とどちらを選ぶのか―――答えは簡単ですね。
今書いたことは、一例に過ぎませんが、こういった直接的に利益につながらないことであってもしっかりと対応し、またリスクマネジメントに備えることで、その企業の評判は高まり、結果的に企業の利益にもつながることになります。また社会課題を解決するために新しい製品やサービスを投入することも、CSRの一環であると言えるでしょう。
CSRを語る上で、必ず耳にする言葉に“持続可能性”を意味するサステナビリティという言葉があります。企業が未来渡って持続していくためには、そもそもその企業を取り巻く社会が持続していなければいけません。逆に言えば、社会が持続できなくなると、企業の経済活動も持続が出来なくなるという訳です。
皆が、「自分たちはいいんじゃないか」とか、「誰か他の企業がやってくれるんじゃないか」といった安易な発想をし始めれば、社会そのものが壊れてしまうのは明白です。
もちろんCSRがすべての社会問題を解決してくれるという訳ではありませんが、まずは一つ一つの企業が自分たちの経済活動による影響を自覚し、それに対していかにサステナブルに対応するのか―――その積み重ねによって、少しずつでも世の中は今よりも良くなっていくのではないでしょうか。