https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59725
この話は保育園だけに限らず委託事業すべてにかかわる話ですね。
ようするに認可保育園の場合、子どもの年齢ごとに保育にかかる費用が「公定価格」として決められ、それが積算されて「委託費」という呼び名で運営費が市区町村を通して各認可保育所に支払われるわけなんですが、本来は委託のうち8割が人件費という計算の上で成り立っています。ただ国が「委託の弾力運用」という、つまりは人件費に8割使わなくてもいいよ、ということを認めてしまっているために、事業者は、人件費を削るだけ削り、余ったお金で他事業への投資をしたり、ほかのことに流用してしまうというわけなんですね。これが、そもそも保育士の低賃金の原因になっているわけで、さらに「企業主導型保育」の導入で、これに当てはまる保育園は、働く人間が100%保育士じゃなくてもいいよ、という話になっているので、当然、ここで働く保育士の負担は増えるというわけです。最近、「企業主導型保育」によって新設された保育園で、保育士が大量に辞めた、というニュースをよく見ますが、原因は低賃金と労働環境にあることは間違いありません。
個人的にも、病院で委託事業の中で働いているので、この事業者による人件費の切りつめは分かります。事業者からしてみれば、切り詰めれば切り詰めるほど利益が出る訳ですから、そりゃ国からそうしてもいいよ、と言われれば、自然とそうなりますよね。そしてそうなると、しわ寄せが来るのが実際に働く人たちで、少人数でとにかく短い時間の中で仕事をするように求められ、やってられないと思った人からどんどん辞めていくという負のスパイラルに陥るわけです。少子化による人手不足に陥る前は、そんなやり方をしていても、募集さえすれば人はやってくるわけですから、粗悪な事業者は反省なんかせずにひたすらにいかに人件費から利益を搾り取ることだけを考えます。ただそのビジネスモデルが人手不足によって崩壊し、働く人がいなくなったから、ようやく今になって問題が表面化したというだけなんですね。これはもう、間違いなく格差社会が形成されるに至った原因の一つです。
保育園の場合は、そもそも有資格者しか基本的には就業出来ないわけですから、より問題は深刻で、だからこそ、国は慌てて「企業主導型保育」などという、誰が見ても保育の質が落ちるに決まっているものを導入し、待機児童問題についてちゃんと対策いますよ、という顔をしているわけなんですよね。
この人件費の切りつめというのは、働いている側からすれば本当に最悪な話です。ほとんどの働き手は、本来自分たちが貰うべき賃金から搾取されているなんて思ってもないから、そういうものだと勝手に我慢しており、そして低賃金と労働過多で、ふつふつと不満を募らせていきます。その一方で、質の悪い事業者の経営者などは、そんなことは現場の責任だとばかりに、現場の責任者に問題の解決の全てを投げてしまい、削った分の利益だけはしっかりと自分たちがいいように使えるようにしているわけです。この状況で間に入る現場の責任者は悲惨ですよね。上からは圧力をかけられ、下からは不満をぶつけられるわけですから。結果、現場の責任者に力がなければ、彼もしくは彼女は、ひたすら会社側に立って、力で現場を抑え込もうとパワハラまがいの行為をするようになるか、鬱気味になって結局辞めていくか、のどちらかです。そうなれば、職場環境が滅茶苦茶ギスギスして、そこで働く誰もが隙あらば辞めたい、と思うようになっていくでしょうし、もうその業界では働きたくない、とも思うでしょう。保育園のケースの場合、資格は持っているものの保育士をやっていない、いわゆる潜在保育士が数多くいることが、そのことを間接的に証明しています。
保育園の問題に関しては、立憲民主、国民民主、無所属の会、共産、自由、社民の野党5党1会派で、2018年6月19日に「保育士等処遇改善法案」「介護人材確保法案」「産後ケアセンター設置法案」の3法案を共同提出し、継続審議中だそうです。
そのうち、「保育士等処遇改善法案」のなかでは、保育従事者一人当たりの賃金を月額5万円上げることのほか、人件費比率などの情報を取りまとめ公表することを盛り込んでいるという話ですが、この人件費率の情報の公表は、保育園だけじゃなく、すべての委託事業においてもやってほしいです。出来れば、公共の施設に関することだけじゃなく、民間同士の委託についてもね。
それが分かれば、就業者はその比率が低いところには働こうとはしないだろうし、それじゃ困るから、ということで事業者も見直さざるを得なくなり、また粗悪な事業者もあぶり出されていくことになるでしょう。
社会を健全化させるためには、企業は自分たちの透明性を重視するべきです。それが出来ない企業は、ダメになっても仕方がないと思いますし、実際、これだけCSRが叫ばれる世の中になっていっているわけですから、ダメになっていくとも思います。
本当にこれは世の中の人々に理解してほしい話ですね。特に委託事業の中で働いている人には、自分たちがどういう状況の中で働かされているかということを知ってほしいです。世の中をいい方に変えるには、決して人任せにせずに、まずは目の前のことを自分自身の問題と捉えて、現状を正確に知ることから始めることが大事です。