2020年プロ野球の全日程が終わりました。
優勝は大方の予想通りソフトバンクホークスでしたが、シーズンを通しておそらく多くの人が驚いたのは、一昨年、昨年と連覇した西武自慢の山賊打線が今年は見る影もなかったこと。
打率はリーグ5位、総得点はリーグ4位と爆発的な得点力を誇っていた一昨年、昨年と比べて寂しい限りの成績です。
なぜあれほどまでに圧倒的だった打力がここまで苦しむことになったのか。
もちろん、浅村、秋山と主軸打者が抜けたというのもありますが、果たして彼らがいなくなったことで何が変わってしまったのでしょうか。
今年山賊打線が苦しんだ理由を考える前に、まずは山賊打線とは何なのかに触れたいと思います。
山賊打線の骨格が出来たのは2017年シーズンに山川穂高が1軍の4番に定着をしてからです。
西武には元来四番打者だった中村剛也がいた。
そこに秋山、浅村、栗山の中堅・ベテランもいた。
さらにそこに森友哉、外崎修汰、そしてルーキーの源田壮亮が加わった。
つまりはクリーンナップが2つ作れるくらいの厚みのある打線がここで出来上がったんですね。
当然、1番から9番まで強打者を並べる打線に、ピッチャーは気が抜けません。
警戒をするあまり、死四球を連発したり、四死球が多いからこそ、狙い球を絞られてガツンとやられたりと、相手チームからしてみれば怖くて仕方がない打線だったんです。
18年オフに浅村選手がFA移籍でいなくなっても、森や外崎の成長や、中村の復活もあって山賊打線が弱体化することはありませんでした。
でも19年オフに不動の1番打者であった秋山翔吾がメジャーにFA移籍した今季は、山賊打線の打力は一気に低下してしまいます。
一体何が起こってしまったのでしょうか。
一言で言えば、山川、森、外崎、中村、源田と栗山以外の主力打者のほとんどが開幕から絶不調に陥ってしまったことに原因があります。
源田は中盤から盛り返しますが、山川、森、外崎、中村はシーズンを通して不調で、山川に至っては負傷により終盤は出られませんでした。
しかしなぜ突然揃いも揃って不調に陥ってしまったのでしょう。
キッカケが1番打者だった秋山がいなくなったことであることは間違いありません。
実際に秋山の代わりとして期待された金子は怪我もあり、1番を全うできたとは言えませんでした。
新加入のスパンジェンバーグはそれなりの成績は収めましたが三振数がリーグ1と多く、タイプ的に1番打者には向いていません。
そのほか鈴木将平など若手の起用もありましたが、研究されたり、ケガがあったりと、誰も定着することが出来ませんでした。
つまり、1年を通して1番打者が固定できなかったんですよね。
そして1番打者が固定されない、つまりは1番打者が高出塁率を保てなかったことで、あとに続く打者に影響が出てきてしまったのです。
1番が出塁をしていないということは、2番以降の打順がそれだけ塁が埋まっていない状態でピッチャーと対戦しなければならない機会が増えるということです。
この塁が埋まっているかどうかというのが大事なんですね。
例えば1塁が埋まっていれば、盗塁を警戒して1塁手は1塁に張りつかねばならないため、それだけ1、2塁間が空いて、ヒットコースが広がります。走者の足が速ければピッチャーはなおさら警戒しなければならず、また当然セットポジションからの投球になるので球威が落ちます。走者が三塁にいる場合は、暴投の可能性があるので、落ちる変化球はつかいづらい。満塁の場面では守りやすくはなりますが、押し出しの可能性が出てくるのでどうしてもコントロールが甘くなってしまう…と、ランナーが出ていることで、バッターにかなり有利な状況を作り出せるんですね。
プロ野球史上満塁ホームラン数1位を誇る中村剛也が、「満塁は別に好きではないが、投球の幅が狭まるので打ちやすい」と言っていることからもランナーが出ていることがいかにバッターに好都合であるかを物語っています。つまり出塁率が高い1番バッターがいることで打線全体に好循環を生み出せるわけですね。
そしてかつて山賊打線にはコンスタントに3割を打てる秋山翔吾がいた。しかしその秋山がいなくなったことで、2番以降の打者にランナー無しで打席が回ってくることが増え、これが打線全体を負の連鎖に陥らせてしまったのです。
それを物語る一つのデータがあります。シーズン当初から夏場過ぎまで4番を務めていた山川穂高の打撃成績ですが、打率.202、出塁率.357。打率の割に出塁率が異様に高いんです。怪我をして打撃フォームを崩す前までは4割前後の出塁率を誇っていたので、いかに山川が勝負させられずに四球攻めにあっていたがわかりますね。つまり一昨年去年よりも山川の打席の時に塁が埋まっていないケースが多かったんです。最初こそ我慢していたのが、次第に我慢出来ずにボール球に手を出すようになり、そのうち打撃フォームを崩してしまったんですね。
もちろん山川だけが不調であったわけではありません。全体的に他球団からかなり研究されたこともあるでしょうし、コロナ渦により6連戦が続き、捕手の森が疲労から精彩を欠いたのも痛かったと思います。
しかし何にせよ、出塁率の高い一番バッターの不在によって「打線」の好循環を築けなかったのが敗因だったと思います。18年オフに浅村が抜けたことよりも、19年オフに秋山が抜けたことの方が打線には明らかに影響があったわけですね。
では来シーズン、山賊打線を復活させるにはどうしたらいいのか。
間違いなく出塁率の高い1番バッターの登場が不可欠です。大きいのはいらないんです。出塁率なんです。
理想はFAでDeNAの梶谷の獲得ですが、そもそも宣言するかわからないし、宣言したとしても縁もゆかりもない西武にくる可能性は少ないでしょう。第一梶谷の年齢を考えれば、短期的な補強と言わざるを得ません。
ならば若手を育成するしかありませんが、果たして1番バッターに適任な若手は誰なのか。
個人的には鈴木将平に期待したいです。今シーズンも調子がよかった時期は1番を任されていましたし、2軍で盗塁王を獲ったこともあるので足もあります。守備もいいので、怪我さえなければ辻監督はおそらく1年を通して1軍に置いておくつもりだったと思います。研究されてからは調子が落ちましたが、2軍で3割を打ったことがあるほど打撃センスはあるので、問題はいかにボールを見極めて四球が取れるかですね。そうすれば出塁率は勝手に上がってくると思いますので。
残念ながら今シーズンはCSもギリギリのところで逃してしまいましたが、来年こそは山賊打線の復活とともに日本一がみたいですね。
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