カイ・シデンという男

カイ・シデン…「機動戦士ガンダム」に出てくるキャラクターですね。主人公のアムロとともに戦うホワイトベースのクルーで、ガンキャノンのパイロットでもあります。

さて、このカイ・シデンというキャラクターなんですが、個人的にはとても興味深いキャラクターだと思っているんですよね。見た目的にはいわゆるイケメンではなく、性格的にもセイラさんに「軟弱者!」と言われて頬を叩かれるくらい、減らず口言っているので、必ずしも好ましく映る人間ではありません。ただこのカイ・シデンというキャラクターには不思議と惹きつけられる人間味を感じます。後述しますが、このキャラクターを主人公にしたスピンオフの漫画作品があるくらいなので、このキャラにそうした感覚を抱くのはわたしだけではないのでしょう。

ではなぜこのカイ・シデンというキャラクターが一部の人にとって気になるのか。その理由を探ってみましょう。

カイ・シデンというキャラクターを考察する上で、個人的に何げに特異な描かれ方をしているな、と思うのは、この人物の世の中をちょっと俯瞰的な視点で眺めているというスタンスです。若年ながらも状況的にどんどんと戦争に巻き込まれていくホワイトベースのクルーの中で、もっとも戦争というものに感情的に距離を置こうとしているのが、このカイ・シデンです。それは、そもそも民間人であり、能力があるアムロや志願したハヤトと違い、大型重機の免許があるからという消去法のゆえにパイロットなった彼だからこその距離間とも言えますね。

実際彼は当初から置かれている状況をそのまま受け入れたくはないといった言動を繰り返し、ときにそれは他人からは無責任な態度にも映ります。

そんな中で、戦争との関わりからどうにか精神的な距離を保とうとしていた彼にとって、後に強い影響を与えることになる出会いと別れの経験がやっています。

有名なミハル・ラトキエとのエピソードですね。ホワイトベースがジオンの追ってから逃れてベルファストに入港した際に、このまま戦争に浸かっていくことに嫌気が差したカイは、船を降りる決意をします。そこで出会ったのがミハルで、カイは弟や妹と暮らす彼女の家にしばらく厄介になることになります。しかしカイはすぐに気がついてしまうのです。彼女がジオンのスパイだということを。

結局カイはホワイトベースに戻るのですが、出港する船の中にミハルがスパイとして紛れ込んでいることを知ります。成り行き上、彼女を匿うカイ。一方でミハルもジオンのスパイをしながらも、ホワイトベースの中にも自分の弟や妹と同じくらいの歳の子どもがいることを知り悩みます。そして自分の情報のせいでほかの子どもたちの命を奪う道理はないとカイに頼んで自らもガンペリーに乗り込んで出撃し、結果的に不幸な死を迎えるのです。

ミハルの死はカイに大きな影響を与えました。それまで目の前のことはどこか自分とは関係のないことだとして、逃げ道を常に用意していたのに、ここで自らの責任と向き合うようになっていくんですね。ただ彼のスタンスは、戦闘に駆り立てられていくアムロとも、個人的な理由で戦うセイラさんとも、軍人としての役割を果たそうとするブライト艦長とも違います。カイは、あくまでこれまで通りに戦争や社会で起こっていることとは距離を取り、彼なりに解釈をしながら、自分たちを争乱に巻き込んでいるこの世界ことを理解しようとするのです。

そうした彼の想いはその節々のセリフに現れています。

「ミハル、俺はもう悲しまないぜ。お前みたいな娘を増やさせないために、ジオンを叩く!徹底的にな!」

「大人のあんたにだって想像のつかない地獄をね、このちーっこい目でさ しっかり見てきたわけよ?」

「逆立ちしたって人は神様にはなれねえもんな!」

ただ目の前の敵が憎くて撃つのではない。何のために戦わなければならないか、本当に戦う必要があるのか、そして戦わずにはいられない人間とは何なのかを自問しつづけるのです。

そんなカイの姿勢は、一年戦争後の自身の身の振り方にも現れ出ています。アムロやブライトが軍に残る一方で、カイはミハルと出会ったベルファストで大学に通い、ジャーナリズムの勉強をします。その後の活躍は続編である「Ζガンダム」でも描かれているのでご存知の方も多いでしょう。カイは、アムロたちとはまた違った、より俯瞰的な視線でジャーナリストとして自分が戦った戦争は何だったのか、そしてその後になぜまた争乱が繰り返されているのかを問いかけ続けているのです。この辺のことは、前述もしましたが、スピンオフ漫画である「デイ・アフター・トゥモロー カイ・レポート」及び「デイ・アフター・トゥモロー カイ・シデンのメモリー」に詳細に描かれているので、興味がある人はぜひ読んでもらいたいです。

それにしてもこうした一人の脇役に対して、これだけちゃんとした設定とライフストーリーが組み込まれてあり、派生漫画まで生まれているって、ガンダムって言う作品はやはり奥が深いですね。

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