「機動戦士ガンダム GROUND ZERO コロニーが落ちた地で」

「機動戦士ガンダム GROUND ZERO コロニーが落ちた地で」
漫画 才谷ウメタロウ
原作 矢立肇・富野由悠希

元々1999年にドリームキャストというゲーム機のソフトとして出てきた「機動戦士ガンダム」の外伝ですね。
このときのCMを覚えていますが、タイトルがものすごい印象的で、しかもゲームで操るのがガンダムではなくジムという点でものすごく気になっていました。
そして元々ゲームシナリオから発したものがコミカライズ化されたわけですが、実はコミカライズ化されるのは、これで二度目。
まさにタイトル買いで気になって読んでみました。

そのタイトルにもなっているのが、「コロニーが落ちて地で」。
「機動戦士ガンダム」のアニメの冒頭を覚えている人は多いと思いますが、まず巨大な宇宙居住用のコロニーが宇宙から落ちてきて、地上の町にぶつかるところから始まります。とてもインパクトのあるシーンですが、あのコロニーが落ちた場所は、実はキチンとした設定があってオーストラリアのシドニーということになっています。
OVA作品である「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」で実際に映像でも出ていますね。
都市全体が失われ、そこかポッカリと穴がいて湖になってしまっているんですよね。
そもそも地球連邦軍の本拠地であるジャブローを狙った攻撃であったのですが、連邦軍艦隊の攻撃や地上からの核攻撃でコロニーそのものが崩壊。三つに分かれたコロニー野軌道は逸れて、その先端部分がシドニーにぶつかったというわけです。
まあ、とんでもない出来事だったことが「ガンダム」の冒頭を見るだけでもわかるのですけれど、この漫画はそのコロニーが落ちた後、大きな被害を被った地であるオーストラリアでの連邦とジオン軍との戦いが描かれています。

注目するべきは、「ガンダム」本編の中で、オーストラリアという場所自体は、戦争の趨勢を変えるほどの重要な場所ではないということ。
派手な要塞があるわけでもなく、風景も荒野ばかりで地味です。でも地味だからこそリアリティがあり、狭いオーストラリア大陸の中で軍隊や兵站をどう動かすのか、そしてジオンの特殊部隊によって持ち込まれたアスタロスと呼ばれる生物兵器の奪い合いを軸に物語は堅実に進んでいきます。敵のエースがザク→グフ→ゲルググと定番通りに乗り換えて行くのに対し、主人公を含めたホワイトディンゴ隊がモビルスーツが強化型ジム→量産型ガンキャノン→ジムスナイパーIIと通常ならメインにならない機体がメインになっているのが新鮮でかつリアル感があり単純に楽しめました。

圧倒的に強いエースがどうにかするのではなく、チーム戦術で困難に立ち向かっていくというのはよかったですね。ガンダムが出てこないというのがある意味でよかったです。

ちょうどこの時期は、0080や0083、それに08小隊とOVAで良質な外伝が映像で発表されていた時期でした。本作もそうした作品と内容的に連動しているのですが、間違いなく本作を含めたこの時期におけるこれらの外伝がガンダムという作品を上手く保管していき、その世界観を深いものへとさせていったんですね。

個人的には、スーパーエースに頼らずに戦争の側面を描き出そうとしていたこの時期の作品群は大好きです。

ただ本作においてすこし残念だったのが、表題に「コロニーが落ちた地で」と題しておきながら、コロニー落としの惨状がほとんど描かれていない点です。あくまで軍隊の動きが中心となってしまっていて、コロニー落としの後の生々しさや怒り、憎しみ、絶望などの感情がオリヴィアとピノに限定されていることは物足りなさを感じました。

もっとどちらかの軍に組するゲリラがいたり、住民同士がいがみ合っていたり、避難民や病人怪我人で町が溢れていて、軍もその対応に追われたりと、コロニーが落ちた後、生き残った人間はどうなったかという側面にもっと重点を置いて、詳しく描いて欲しかったです。せっかくゲームからわざわざコミカライズされたわけですからね。

あとアスタロスを持ち込んだ特殊部隊を率いるニアーライトの描き方が絶対悪としてしか描かれていない点も不満でした。ニアーライトにも彼なりの考えや背景があるはずです。ただそこが彼個人の性格的な狂気にすべてまとめられしまった点は残念でした。狂気を描くなら個人の性格から生まれたのものではなく、戦争という状況の中から生まれた狂気を描いてほしかったです。キシリアに忠誠を誓うなら彼なりになぜそうなったのが、どういう集団心理が働いてしまってそうなってしまったのかを、単にこの人物の性格そのものや単純にザビ家だけを悪とするのではなく、丹念に描いてほしかったです。

その辺りの彼の感情に、コロニーが落ちた地における住民の感情が絡み合っていけば、この作品は間違いなくガンダム史において名作になったと思います。

万が一映像化される場合にはぜひこの点を特に改良して描いてほしいですね。

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