〈家父長制〉は無敵じゃない 日常からさぐるフェミニストの国際政治
著 シンシア・エンロー
社会の様々な場面で支配の顔を覗かせる家父長制に対して、フェミニストたちがいかに戦ってきたのかを記した本です。
男性の中には、フェミニスト=男性を攻撃する人と認識している人も多いと思いますが、この本を読むとわかりますが、フェミニストは男性そのものを攻撃しているわけではなく、家父長制がおかしいと主張しているんですよね。
わたしは男ですけれど、確かに家父長制は時代錯誤であり、単純に権力のある者が支配しやすくするための制度であると思うので、おかしいと思います。
実際ほとんどの男の人は家父長制について深く考えたことがないと思うのですが、しっかりと家父長制について学んでみると、家父長制によって恩恵を得ているのは一部の権力側に立つ人たちだけで、その他多くの人にとってはむしろ不利益にしかなっていないんですよね。
でもこの家父長制というやり方があまりに現代の社会にも当たり前のように入り込み過ぎているために、それが常識と君臨してしまっていて人々は家父長制の存在にもそれによっていかにからめとられているのかにも気づかない。
特に男性の場合は、社会の暗黙の了解によってあたかもそれが己がためのように身につけさせられるので、家父長制への攻撃=自身への攻撃という錯覚を常に起こらされているという始末なんですよね。
この本では、そんな男性にとっては一体化しすぎてどうしょうもない問題である家父長制に対し、長い年月をかけていかにフェミニストが家父長制を終わらせるべく戦い続け、成果として国連や各国を動かしていったのかということを丁寧に語っています。
そしてこうしてまとめられた本を読むと、いかに家父長制が世界中の社会で当たり前のものとして組み込まれ、女性たちが声をかけてあげなければその歪さを考える機会すらなかったことに気づかされるんですよね。
特にシリアについて丹念に書かれている軍事と家父長制との関係には非常に考えさせられました。
確かに平和の何たるかを知っているのは、いかに生活をするのかがわかっている女性であるはずなのに、彼女たちを締め出して、これまでドンパチをやっていた人たちだけで和平交渉などしても説得力がありませんよね。
また日本にもたくさんあるので軍事基地の問題についても、著者の言う通り家父長制の話であることは間違いありません。
本当に様々なところに家父長制のシステムが組み込まれていて、わたしたちの多くはその差別的な現状をほとんど何も考えずに受け入れてしまっています。その不平等さに声をあげているのがフェミニストとだけだと言われても過言ではありませんよね。
そして問題は、どんなにフェミニストが家父長制をあらわにし、それを是正し続けていても、家父長制は姿を変えて今も生き続けているという事実です。
しかも目に見える形ではなく、暗黙の了解のように脈々と続いているから厄介なんですよね。
ただ世界のフェミニストたちはまだまだ闘い続けています。
そして、男性そのものにたいしてNOを突きつけるのではなく、あくまで家父長制についての問題を切々と丁寧に訴え続けていくことは、少しずつでもその成果は今後も確実に現れてくると思います。
家父長制が女性や子供だけでなく、多くの男性にとっても、ひいては社会全体にとっても差別と不平等を生んでいるのだということが明らかになっていけば、男性の中からも家父長制についてNOを突き付ける人がたくさん出てくるでしょうからね。
フェミニストという単語を見ただけに及び腰になってしまう男性はたくさんいると思いますが、ぜひともそういう人にまず手にとってほしい本です。
属性が違うという理由だけで対立するのではなく、まずは何が社会を支配しているのかを理解し合って対話を始めることが大事なのですから。
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