「破壊された男」
著 アルフレッド・ベスタ―
「虎よ、虎よ!」で有名なアルフレッド・ベクターが初めて書いた作品です。
エスパーとノーマルな人間が共存しているという世界が舞台で、エスパーは人の心を覗き見ることが出来るという設定が話の肝になっています。物語そのものはいわゆるサスペンスの部類に入りますが、主人公が謎解きをしていくというオードックスな形ではなく、殺人を犯した大富豪のライクとそれを追う刑事のパウエルが互いに化かし合う刑事コロンボ形のドラマですね。ポイントは、自分が犯人だという証拠を掴ませんとするライクがノーマルな人間で、それを暴こうとするパウエルが一級エスパーだという点です。ライクがエスパーに自らの心理を覗かせんとする様子がこの作品の特徴とも言っていい点で、そのあたりがこの作品がただのサスペンスではなく、SF作品らしく仕立てています。
個人的には最初読んでいたときは、エスパーに対して、ノーマルな人間が追うという形にした方が単純に感情移入がしやすいんじゃないかと思いました。実際に「虎よ、虎よ!」でもそうですが、この人の作品って面白いんですけれど、微妙に登場人物に感情移入が出来ないんですよね。今回もその通りで、ライクはいざ知らず、何でパウエルに感情移入があまり出来ないんだろうって考えていたんですけれど、それはやはりパウエルが一線級のエスパーであり、どうしても普通の人であるぼくらとは違う感覚の人間なんだと無意識に線を引いてしまうからなんですよね。
ただ物語を最後まで読んでみると、確かに犯した側がエスパーで追われる側がノーマルじゃないと話がまとまらないというか、そもそも作者が言いたかったテーマが表現出来ないということがよくわかるので、これはこういう風な構図としてしか物語がそもそも成り立だないということがよくわかります。
まあ、見方を変えれば、感情移入のしやすいキャラクターを動かす、つまりは昨今のエンタメ作品のようにわかりやすさをある程度追求することを前提にするのではなく、あくまでテーマを最優先させるという作者のスタンスのようなものを強く感じますね。この作者のいい意味での何者にも流されない強情さがこの作品の後に「虎よ、虎よ!」を生むというのはよくわかります。
ただ「虎よ、虎よ!」もそうですが、この人の話は突飛な世界観を覗かせてくれますが、映像化するためには色々と揉めそうですね。
関連記事:
「宇宙へ」 著 メアリ・ロビネット・コワル