「無限記憶」
著 ロバート・チャールズ・ウィルスン
評価の難しい話でした。
ヒューゴー賞に輝いた「時間封鎖」の続編ですが、続編として「時間封鎖」でわからなかった事実を解き明かしていくという意味では非常に興味深い話でした。
ただこの作品が三部作の真ん中であるがゆえに、まだまだ解き明かされない謎があるという感じで話が終わってしまうことにはどうしても消化不良感が拭えず、また話の構成としてもアイザックを通して仮定体の謎に迫ることに終始しているので、前作ほどのドキドキ感がなかったことは残念でした。
第四期が独自のコミュニティを気づいており、その中の一つのグループが倫理的に踏み入れてはいけないことに手を染めてしまったことで物語が始まるという設定は面白いと思ったのですが。
もったいないなと思ったのは、いくつか話をもっと広げられるエピソードがあったのにそれを使いきれてないという点です。
物語としては、タークやリーサを追い詰めるワイルとジグムンドは、途中で諦めずに最後まで彼らを追うべきであったし、リーサの父親の失踪事件に関してもあれほど引っ張っておきながらも、想像の範囲内での事実が断片的に語られただけなのは、正直ちょっと拍子抜けでありました。
物語そのものが仮定体のことに焦点が置かれすぎて物語を楽しみたいという読者の気持ちがやや置き去りにされてしまった感がありますね。
しかもこれだけ仮定体の話に終始した割には、その内容があくまで前作でわかった事実の延長線にあるもので、少し意外性に欠けていた点こそが本作に乗り切れない大きな理由になってしまっているように思いました。
いや、色々と書いてますが、SF小説としてはもちろんハイレベルな作品だと思いますよ。ただ前作がすごすぎたので、その続編となるとどうしても辛口になってしまいますよね。ただ前作とどうしても比べてしまうと、どうしても一つの独立した話というよりは、前作の捕捉のような感じになってしまうんですよね。
ただ相変わらずこの作者が描く世界観の緻密さは見事でした。
物語は最初から最後まで、前作でタイラーとダイアンが向かったイクウェイトリアが舞台なのですが、この地球に似ているが地球でない惑星がまるで本当に存在しているかのように描写しています。この作家の特徴として、文章から視覚的なものだけでなく、臭いや音、触感など五感を感じさせる描写が至るところ散りばめるので、どんなに荒唐無稽な話でもそれがリアルなものとして読んでいる人に想像させるんですよね。
そうした点が、社会そのものの描写にも生きているので見事です。
この作家の作品を読んでいて、わたしが心地よく思うのはまさにこの点なんですよね。
SF小説にあって、ここまでリアリティを感じさせる描写が出来る人はなかなかいないです。
さて、「時間封鎖」シリーズは次の「連環宇宙」でおしまいです。
ここまできたら、どう決着をつけるのか楽しみですね。