あだち充作品の中で「タッチ」に次ぐ知名度の高い作品ですね。
野球にラブコメを混ぜたところは、あだちさん得意のカタチですが、大きく違うのは「タッチ」が三角関係を描いたのに対し、本作はそれをさらに進める形で四角関係を描いているというところです。
三角関係はアンバランスなので、ドラマにしやすいのですが、四角関係で二つのカップルがほとんど出来ている状態だとなかなかドラマとして仕上げるのは難しいんですよね。
それをあえてやっているというのが、本作の価値であり(四角関係をドラマの軸に置く作品はあまりない)、しかも人気漫画に仕立て上げているのですから恐れ入ります。
物語は、国見比呂と橘英雄の二人のHEROを軸に描きますが、これまでのあだち漫画と違うのは、「野球」の部分にある程度重点を置いているところです。
大抵飛ばされる春季大会とか春の選抜とかもちゃんと描いていますし、何よりあだち漫画は基本的に夏の甲子園の予選を舞台を中心に描かれているのですが、この漫画ではしっかり甲子園での舞台もそれなりにちゃんと描いてくれています。
比呂と英雄の能力があまりに突出し過ぎているだろうとツッコミを入れたくなる人もいるかもしれませんが、それはそれで野球も恋愛も楽しく読めるのがあだち漫画の真骨頂なんですよね。
終盤に渡って、作者としてのある意味での誤算が比呂と英雄が争うはずのヒロイン・雨宮ひかりよりも、一途に比呂のことを慕う古賀春華の方が読者にとって人気が出てしまったことでしょう。
かくゆうわたしも、漫画を読みながら、春華派でした。
正直、「タッチ」の浅倉南よりも好きですね。
比呂は絶対に春華を幸せにしてあげてほしいと自然と願っていました。
たぶん、そんな風に思った読者は多いかなと思います。
キャラに人気が出るというのは喜ばしいことなんですけれどもね。
読んでいて、そのことによってまとめ方を、作者自身が迷い始めたというのが何となくわかるんですよね。
比呂が春華を振って、ひかりとくっつくなんてことになると、主人公であるはずの比呂が憎まれ役になってしまい、話がまとまらなくなってしまいますからね。
まあ、そう考えると、そもそも比呂と英雄とひかりの三角関係にした方が、物語としてはわかりやすくはなるのですが、ただそうすると、普通の作品になってしまって、「タッチ」と何が違うんだという話になってしますからね。
やはり「四角関係」を描くことを貫き、それを貫徹することでこの「H2」という作品は独自のものになったように思えます。
少しいつものあだち漫画よりも長い連載であったので、メインの四人以外にも、野田とか木根とか、そのほかもろもろのチームメイトや対戦相手のキャラやエピソードもしっかりと書き込んでいたところはとても好感を持てましたね。
そういう意味では、野球漫画としても十分に楽しめました。
それと、ラスト。
甲子園の決勝戦をあえて描かなかったことには笑いましたね。
これまで以上に野球を描いていながらも、最後の最後ででも自分はラブコメを描いているんだという作者の潔さというか、自分の作家性を見失わない強さのようなものを感じました。