「いつも美空」
著 あだち充
「タッチ」や「H2」といった作品でよく知られているあだち充さんの作品ですね。
あだちさんの作品は叙情とシリアスとコミカルさがうまい具合に混じり合った作品が多いのですが、本作はコミカルさにかなり重点が置かれた作品です。
特徴的なのが、話を読み進めても、この物語がスポーツものなのか、超能力ものなのがその主題がさっぱり見えてこないこと。
一応、ことあるごとにこの物語は日本人で初めてアカデミー主演女優賞を獲得した女の子の話だと銘打つのですが、そっちの道に行きそうになるたびに引き返すことを繰り返していきます。
作者が確信犯的に読者を戸惑わせているのは間違いのないところなんですが、戸惑いつつも得意のコミカルさで不思議と惹きつけられて読ませてしまうというのがこの作品の魅力でもあるんですよね。
話としては、主人公たちに超能力が宿り、レンタルクラブに入部して……という流れはあったのですが、次から次へと寄り道的な展開を繰り返していきます。
決して予定調和でまとめるのではなく、あくまで描きたいことを描いて楽しみたいという作者の意向みたいなものがハッキリと出ているのがわかるんですよね。
まあ、どうしてもあだちさんの場合、野球×ラブコメの印象が強過ぎますからね。
時折こうした内容のものを自由に描きたかったのかもしれません。
終盤で野上篤史が登場してからは、超能力がようやく効果的に使われ始め、さすがにラストに向けてまとまっていきますが、全体的に抜けた感じは変わらずに貫かれています。
これはこれで楽しく読めたのでよかったのですが、ただせっかく映画や演技をテーマにしていたので、このテーマをガチに描いたあだち漫画も読んでみたかったなとも思ってしまいました。