「なめらかな世界と、その敵」
著 伴名 練
今後の日本SF界を引っ張っていくであろう、伴名練さんの短編集です。
6つ作品が収められていますが、どれも面白いです。大抵短編集って、微妙なものも混じっていることが多いんですけれど、ホントにハズレが一つもなかったですね。
SF作家として非常に安定、卓越した力の持ち主何だということがこの短編集を読むだけでわかります。
ラインナップとしては、表題にもなっている「なめらかな世界と、その敵」をはじめ、「ゼロ年代の臨界点」「美亜羽に贈る拳銃」「ホーリーアイアンメイデン」「シンギュラリティ・ソヴィエト」「ひかりより速く、ゆるやかに」の6編です。
物語として個人的に一番楽しめたのは「ひかりより速く、ゆるやかに」ですね。
読後感というか、構成の基本線が朝井リョウさんの「何者」に似ているのですが、これは主人公の気持ちを隠しながら話を進めさせなければならないので、作家に相当力がないと出来ないやり方なんですよね。
それをいとも簡単にやりつつも、しっかりと主人公の気持ちが変わるところのオチまでつけているので読み終えて唸ってしまいました。
あとテーマ性をもっとも感じた「シンギュラリティ・ソヴィエト」も面白かったですね。
今現在のAI技術の進化に対する懸念についてしっかりと作家なりの視点で描いていると思います。
そのほかにもコメントをしたい話が目白押しなんですが、全体的に伴さんが優れていると思うのは、SFという大きく特徴的な設定の中で、しっかりと人と人との関係を描いており、それが普遍的なテーマとして浮かび上がってくる仕組みを見事に表現している点です。
「なめらかな世界と、その、敵」における友人同士の関係、「美亜羽における拳銃」における男女の関係、「ホーリーアイアンメイデン」における姉妹の関係と、どれも定型的に描いてしまいそうな関係に、一癖も二癖もある背景を絡ませることで、独特の個性をこれでもかというほど発揮しているんですよね。
それと伴さんの作品を読んでしみじみと感じるのはSF小説というジャンルに対する愛の深さです。
「ゼロの臨界点」を読んでもわかるように、SFに対する造形と知見が深く、それが安定した面白さを生み出しているんですね。
いやあ、もっと伴さんの書くものが読みたいです。短編、中編の名手という印象がありますが、出来れば長編も見てみたいですね。
そして、こうなってくると伴さんが編纂したアンソロジーとかもら気になってきます。
作家としてだけでなく、編者として立ち位置的に、伴さんが大森望さんや日下三蔵さんの後を継いでいくことも期待出来ますからね。