「日本SFの臨界点[怪奇篇] ちまみれ家族」
伴名練 編
SF作家の伴名練さんが、優れた作品でありながらも、これまで種々の短編集で拾われていない作品を集めたアンソロジーです。
集められた短編は、
・「DECO-CHIN」中島らも
・「怪奇フランクル男」山本弘
・「大阪ヌル計画」田中哲弥
・「ぎゅうぎゅう」岡崎弘明
・「地球に磔にされた男」中田永一
・「黄金珊瑚」光波燿子
・「ちまみれ家族」津原泰水
・「笑う世界」中原涼
・「A Boy Meets A Girl」森岡浩之
・「貂の女伯爵、万年城を攻略す」谷口裕貴
・「雪女」石黒達昌
の11篇です。
どれも伴名さんが選んだものだけあって優れた作品だと思いますが、中でも個人的に好みなのは「地球に磔にされた男」「黄金珊瑚」「雪女」の3篇。
「地球に磔にされた男」は読み物として一番楽しめました。
中田永一さんは、別のペンネームである「乙一」の名前で知っている人の方が多いでしょうか。
物語の語り口が軽妙でわかりやすく、どんどんと作品に没頭してしまいました。
「黄金珊瑚」は短編でありながらもスケールの大きい感じの話が個人的には好みでしたね。
唯一、女性作家として名前を連ねていますが、昭和の女性らしく結婚と同時に夫に反対されて作品を書かなくなってしまったというのは残念でなりません。
「雪女」は単純に作家の知的水準の高さを楽しむことが出来ました。こうした伝承めいた話をこういう形でアプローチすれば、SFになるんだと非常に勉強になりましたね。
そのほかにも「A Boy Meets A Girl」なんかもファンタジーに見せかけてしっかりとSFに落とし込み、哲学的な話に持っていっているところが意外で面白かったですし、「ぎゅうぎゅう」や「ちまみれ家族」なんかも設定の仕方がユーモアで面白かったです。
いやあ、たまにはこうしたアンソロジーを読むのもいいものです。
短編を並べるだけじゃなく、作品や作家についての情報を、さらに巻末には日本SF史についての解説もしてくれているので、SFファンには非常にありがたい一冊ですね。
それにしてもこれを集められる伴名さんのSF小説に対する知見には驚かされます。同時期に作られた「恋愛篇」もぜひ読みたいですね。