「最強伝説 黒沢」 著 福本伸行

「最強伝説 黒沢」 著 福本伸行

「カイジ」で有名な福本伸行さんの作品ですが、面白いです。
正直個人的には「カイジ」よりもこっちの方が好きです。
読んでいて久しぶりにゲラゲラと笑ってしまうことが何度もありました。

まったく一般的な幸せとはかけ離れた立ち位置にいて、いつの間にかただ年をだけを重ねてしまった冴えない中年、黒沢が主人公なのですが、いわゆる社会の底辺にいるような人物を描きながらも、暗い話にならずに漫画として笑えるものになっているという点に、この漫画の凄みを感じます。
普通、この手の格差や貧困がテーマとなる場合、大抵は暗くなり、主人公のメンタルもルサンチマンになりやすいんですよね。これはもう「蟹工船」や「枯木灘」からの伝統で、そう描かなければリアルさが強調出来ず、テーマが伝わるわけがないというのが常識になってしまっているのだと思います。

でも、本作はこのテーマを見事に自虐的な笑いに転化することによって、エンタメ漫画として成立させているんですよね。
これは出来そうでなかなか出来ないので、さすがは福本さんといったところです。

二十年近く前に書かれた作品ですが、テーマが普遍的なので、どの時代に読んでも沁みる人はたくさんいると思います。
まあ、「生きる」の意味としてイコール暴力に対して立ち上がる、みたいな話にどうしてもなってしまっている点、つまりは実は社会の上に居座る人間と相対するのではなく、結果的に身体的なチカラで人を屈服させるようなタイプの人間を倒すことに終始してしまった点がやや残念ですが、ここは娯楽漫画である以上仕方ないといったところですね。
そもそも腕っ節以外の抵抗の仕方を知っていたら、当初の黒沢の立ち位置が変わってしまい、そうすると途端にリアリティがない話になってしまいますからね。

さて、この漫画において触れずにいられないのが、やはりラスト。
ここからはネタバレになるのですが、主人公である黒沢が死ぬという元も子もない終わり方は、さすがに唐突感があります。
テーマ的に逃げずに生き抜いた結果死んでしまうというオチでは、それまで語ってきたことのすべてがアイロニーとして受け止められかねないので、感情の持って行き場に困る終わり方だとは思います。

ただこれには事情があり、実は打ち切りだったゆえにこうした結末になってしまったとか。
でも作者の福本さんがすごいのが、そこからまるで黒沢が乗り移ったがごとく、続編を作り上げたというところです。
やはり福本さん的にもあれで黒沢が終わってしまうというのが忍びなかっただったんでしょうね。
ちなみに続編では実は黒沢は生きていて、8年間の昏睡状態から目覚めるところから始まるようです。
気になりますねー。ぜひ読んでみたいです。