「MAJOR」
著 満田拓也
野球漫画の金字塔に達した作品の一つですね。
これでもかと降りかかってくる難局に対して、抗おうと努力して後、メジャーリーガーなっていくというわかりやすいストーリーなのですが、わかりやすい主人公像とわかりやすいストーリー展開であるがゆえに、がっつりと感情移入が出来る作品です。
この作品は少年サンデーで掲載されたものなんですけれど、面白いのは同じ野球漫画でも、少年ジャンプで掲載されるスポーツ漫画とは、やはりちょっと違うんですよね。
主人公の茂野吾郎のキャラクターこそ、昭和ドストライクの、能力アリ、破天荒でも、滅茶苦茶努力はするという、わかりやすいキャラクターではあるんですけれども、本作は、ジャンプ漫画と違って、「勝利」にそれほど固執していないんですよね。
ジャンプ漫画といえば、いわゆる「努力・友情・勝利」の哲学が有名です。
つまり、友情をはぐくみながら努力をし、そして勝利をつかみとってこそが、王道だというわけですね。
かつて「スラムダンク」の作者が主人公の属するチームが負けることで連載を終わらせたかったのに、ジャンプ編集部がそれを許さず、禍根が残ったというのは有名な話ですね。
でも、サンデー連載の本作では、努力・友情はあっても、それほど勝利は重視されていない。
主人公の吾郎が勝利を目指していない訳じゃないんです。
勝利は目指すんですけれども、必ずしも勝利で終わるとは限らないというところにジャンプ漫画との大きな違いがあるということなんですね。
じゃあ、何を描いているのかと言えば、それはずばり「成長」です」
苦難にぶつかって、ときに結果が出ないことがあっても、それにもめげずに前に進もうとする茂野吾郎という人間の成長物語なんです。
もちろん、ジャンプのスポーツ漫画が登場人物の成長を描いていないと言いたいわけではありません。
ジャンプにも、主人公の成長を見事に描いた「ホイッスル!」などのありますしね。
ただ、掲載紙の哲学として、「努力して成長するのなら、結果もついてきてほしい。なぜなら、結果がついてきてこそ、読者はカタルシスを感じるのだから」と考えるジャンプに対して、本作はあくまで吾郎の「成長」に大きくウェイトを置いているわけなんです。
確かに、実際吾郎は怪我も多く、また勝負に負けることも多いので、読んでいる方からすると歯がゆく思ってしまうことも多いのですが、その分、彼がさらに成長した姿を見て心を揺さぶられんですよね。
特に中学から高校にかけて、吾郎がこれでもかというほどの苦難を乗り越えてプレーヤーとしてだけでなく、人として大きく成長していく姿には見入るものがあります。その分、ある程度成長したメジャー以降の話は、若干ストーリーとしてトーンダウンしていることが否めないのですが。
それにしても幼稚園児から三十代半ばまでを描いているわけですから、壮大な話ですよね。
これだけ長いスパンで描かれる物語も珍しいんじゃないでしょうか。