「すずめの戸締まり」

「すずめの戸締まり」
2022/日本

エンターテイメントとして安定の面白さがありますね。
ファンタジーの要素が強いのですが、話に入りやすく最後まで楽しんで観ることが出来ました。
地震に神がかり的な説明を与えてしまっている点については賛否両論があるとは思いますが、「戸締まり」のアイデア自体は面白く、ストーリーそのものはエンタメ作品として素直に観入ってしまいましたね。

どうしても有名な監督作品の場合、過去の作品との比較になってしまいますが、個人的には前作の「天気の子」よりもよかったと思います。
「天気の子」もよかったんですけれどもね。
ただラストがね……いわゆるトロッコ問題(一人の命を救うか多数の命を救うか)になっており、一人の命を選んだことに対する理由がどこまでいっても感情論に終始してしまっているところにどうしても引っかかってしまったんですよね。

ただ本作は、その「天気の子」で描き切れなかった部分に果敢に挑んでいると思います。
物語の中盤でトロッコ問題が再び出て来て、そこで自分が下した決断について、主人公がそれが正しいのかどうかもう一度考えて行動するという展開になっていますからね。
前作を踏まえた上で、こうした話の展開はとても好意的に思いました。

まあ、結果的にまとめ方が結局個人の内面の話に落ち着くという、こういうまとめ方しかないよなというやり方ではあったんですがね。
大風呂敷を広げて、結局個人の内面の話にまとめるというやり方は、ちょっとエヴァに似ているなと思いました。
ちょっと、このやり方は、パターン化しつつあるので、今後はベタに感じるかもしれませんね。

それにしても、新海さんは本当に「神様ネタ」が好きですよね。
まあ、表現の仕方は自由なので、それでもいいんですけれども、ただ毎回思うのですが、せっかく神様を扱うのならもうちょっとそのあたりのことを突っ込んで描いてほしいなと思います。
何だか、設定だけをフワッと利用しているように見えて、その辺りが宮﨑作品との違いなのかなと思ってしまうんですよね。

とても面白い作品を作っているからこそ、さらにいいものを作ってほしいので敢えて言うのですが、エンターテイメントに徹するのはいいのですが、もうちょっとバックグランドに深みを持たせてくれたらと思います。

まあ、どうしても震災の話にはなってしまうんですけれどもね。
これを今扱うのだとしたら、やはり一歩二歩踏み込んで描いてほしかったかな。

「天気の子」同様に、今回も主人公のバックグラウンドが十分に語られていないこと(たとえば、全く出てこないすずめの父親の話とか)がやはり気になってしまいます。
「天気の子」のときに、あえてそこは描かないのだと何かのインタビューで読みましたが、いや、描き過ぎる必要はないけれど、せめて読者の想像の手がかりになる程度には描く必要はあると思います。
確かに、そこを描いてしまえば、新海流のフワッとした感じがなくなってしまい、より社会性の濃いものなってしまうかもしれませんが、もう一皮も二皮も剥けてほしいんですよね。
そこのところを逃げずにしっかりと描くようになれば、宮﨑アニメのように何十年経っても古びない映画になると思うのですが。

普通のエンターティナーで終わってほしくないんですよね。
かつて「ほしのこえ」や「秒速5センチメートル」で衝撃を受けた身としては。
何だか最近、新海監督の作品を見るといつもそう思ってしまうのです。