「虚空の人」 著 鈴木 忠平

「虚空の人」 
著 鈴木 忠平

元プロ野球選手のスター選手だった清原和博さんが覚醒剤取締法違反で逮捕されてから、執行猶予が開けるまでの様子を描いた本です。

実は、清原さんは、子どもの頃のわたしにとって、一番のスターだったんですよね。
物心ついたころから、西武ライオンズのファンだったわたしにとって、甲子園で大活躍してから西武に入団し、ライオンズの黄金期の四番打者として活躍していく清原選手の姿は、本当に憧れ以外の何ものでもなかったんです。

もちろん、涙のドラフトから、高卒一年目で三割三十本を達成して新人王に輝いた時のことも、日本シリーズに巨人に勝って涙した時のことも、オールスターで桑田投手からホームランを連発したときのことも、わたしの中では燦然と輝く記憶なのです。
ていうか、当時はライオンズ戦はほとんどテレビでやっていなかったので、もっぱラジオの文化放送をかじりついて訊いていたのですが、試合の勝ち負けと同じくらい、清原選手がホームランを打ったかどうかに一喜一憂していました。

なので、清原選手がFAで巨人に移籍してしまったときは正直悲しかったし、覚せい剤取締法違反で捕まった時は、かなりショックを受けました。
世間の風当たりも強くなっていましたし、確かに許されない罪を犯してしまったことは間違いのですが、ただわたしとしては、子どもの頃のスターを悪く言う気にもなれなかったんですよね。
実際、陰ながら清原さんの立ち直りを応援してたわたしは、釈放されてからの清原さんの動向はニュースで追える限りはほとんど追っていました。
この本に書かれている、弟分が自殺してしまったことや、甲子園の決勝を観に行ったこと、プロ野球のOBが集まって野球教室に参加したことなどは、みんな知っていました。
そしてニュースを見る限りでは、少しずつ立ち直ってきていると思っていたんですよね。

でも、この本を読んでみて、それが大きな間違いであり、清原さんがずっと苦しんできたということを知って、またしてもショックを受けました。
まあ、それだけ覚醒剤というものは怖いものであり、元の生活に戻るには並大抵ではないということなんでしょう。

この本では「清原和博」とは一体何者であり、なぜ彼がここまで苦しんでいるのかが描かれているのですが、スターというものはみんなが勝手に思い描いているもので、本人にとっては、それは本人であって、本人じゃないようなもので、ときにとても重荷になるものなんでしょうね。
とっていっても、誰もがスターになれるわけではなく、なった者にしかわからない苦しみがあると思うのですが、でも改めて閑雅てみると、清原さんは高校生の段階からスターであることを求められている訳で、精神のバランスを高く保てと言われても、なかなかきつかったのかなと思います。

絶えず常人には想像も出来ないようなプレッシャーにさらされているわけですし、年齢を重ね、肉体的なピークが下って行く際には、嫌でも批判にさらされる運命にあるわけですからね。

メンタル的に弱い部分はあったかもしれず、作品中でも触れられていますが、ただ同じような立場に立った場合、ほとんどの人があんなプレッシャーには耐えられないよなとは思います。

何か全部読んでみて、ただ憧れだけで清原選手を少年時代に追っていたことが、清原選手にとって申し訳なかったなと思いました。
もちろんそんなことは思う必要はないことはわかっているのですが、どうしても、ただスターとして応援するだけじゃなく、もう少しファンとして違ったアプローチの仕方と言うか、思いやりの持ち方があったのかもしれないなって。
まあ、わたし一人がどうこうしていたところで、何も変わらなかったということもわかっているのですが、これだけ「弱さ」を見せられてしまうと、どうしても考えてしまいます。

個人的には、清原選手にはまた何らかの形で野球界に戻ってきてほしいです。
できれば、またユニホームを着て、欲を言えば、ライオンズのユニホームを着て。

まだまだ辛さは何度もぶり返すと思いますが、少年時代に「夢」をたくさん見させてもらった一ファンとしては、これからもやっぱり応援してい来たなって改めて思いました。

「弱さ」を見せてもらったことで、身近に感じられたというか、同じ人間だったんだって、なんか妙に親しみを感じてしまいましたしね。