「宮部みゆき責任編集 松本清張短編コレクション 下」
著 松本清張
宮部みゆきさんが編集した松本清張さんの短編集の下巻です。
この本に収録されているのは、
「支払い過ぎた縁談」
「生けるパスカル」
「骨壺の風景」
「帝銀事件の謎」
「鴉」
「西郷札」
「菊枕 ぬい女略歴」
「火の記憶」
の八編です。
個人的に面白かったのはやはり「西郷札」。
そもそも西南戦争のあたりの歴史に非常に興味があり、色々と調べたことがあったので、小説の設定だけでまず惹かれましたね。
そして「西郷札」という軍票に注目をして、これだけの作品を作り上げてしまうのはさすがです。
ちなみにこの「西郷札」で文芸誌で入選したことで清張さんは作家への一歩を踏み出したんですよね。
あと「鴉」も面白かったです。
清張作品には、ちょいちょい会社を舞台にした話があるのですが、さすがに長い間清張さん自身新聞社で働いていたこともあって、会社社会の描写がリアルなんですよね。
同じ会社にいても、立ち位置や能力などによって違いがあり、そこに色々な問題が起きる。
今もそのままの風景ですね。
そうした日常の光景をサスペンスに持っていくのはさすがの手腕です。
「菊枕」や「火の記憶」も推理小説ではありませんが、短編としてとても洗練されていて、食い入るように読んでしまいました。
これでこのシリーズの上中下と三冊読みましたが、清張作品に共通しているのは、やはり人間を描き切っていることですね。
ミステリー仕立てにしても、ルポにしても、純文学風な作品にしても、そこはブレていないんですよね。
しかもそうして描かれた人間に対して没入するわけでもなく、かとって突き放しているわけでもない。
人間とはこういうものなんだというのを清張さんなりに探り続けている中で、作品を重ねていっているような気がしました。
どうしても松本清張と言うと、「砂の器」や「点と線」「ゼロの焦点」など長編作品が挙げられがちですが、ときにはこうやって短編作品を旅してみるのもいいですね。