「汝、星のごとく」
著 凪良ゆう
読んでいる途中から感情が圧し潰されるような感じがずっとしました。
暁海と櫂の二人の男女の想い、距離、重なり合うもの。
そのすべてをこれでもかというほどに語り、人はどう生きるべきなのか、どう人と関係を築いていくべきなのかを言葉の限りで尽くしています。
人物の繊細な気持ちをここまで描き切れる作家さんは珍しいですね。
その部分だけでも読んでよかったとも思いましたし、本屋大賞受賞も納得でした。
負担となる親の下で生まれた子供、いわゆるヤングケアラーがテーマとなっていますが、無茶苦茶リアリティがありますね。
おそらく作者自身の経験であるとか想いであるとかがそのまま投影されている部分も多いと思いますが、そうした当事者性を作品に込めていくことは非常に大事だと思います。
それこそが個性でありますからね。
小手先の技術や薄っぺらいエンターテイメント性で誤魔化さずに、作者が作品と嫌と言うほど向き合って書いているというのことが痛いくらいに伝わってきました。
自由に生きたいように生きる。
簡単そうに見えてこれがなかなか難しいんですよね。
それでもどうやって生きて行けばいいのか、そんなヒントを与えてくれる、ていうか少しでも前向きに頑張ろうとしている人の背中を押してくれる作品ですね、これは。
確かに暁海がいきついた家族の形は一般的な視点から見たらヘンな形かもしれませんが、それでいいんです。
大事なのは、本人たちがいかに納得して、自分の居場所をどう築くのかですから。
それにしても、暁海にしても櫂にしても、確かに親には恵まれませんでしたが、読んでいるうちに実は人には恵まれているんだなと思いました。
北原先生にしても、編集者の植木さんにしても、絵里さんにしても、ここまで他人のために手を焼いてくれる人はなかなかいません。
たぶん、現実の世の中はもっと厳しく、そうした人物に出会えないままの人の方が大半なんじゃないかなと思います。
ただ自分が変わって、自分からどうやって生きればいいのか、どうすれば自分が納得できるのか、それを考えて行動すれば、もしかしたら自然と助けてくれる人に出会えるかもしれません。
人間、やっぱり頑張っている人とか、必死にもがいている人をみたら応援したくなりますからね。
諦めて投げやりになる前に、とにかくやってみる。
なかなか時間が無かったり、気力が無かったりで難しいことも多いかもしれませんが、でも一歩を踏み出して、自分を変えて行かない限り何も変わらないし、応援してくれる人にも出会えないんですよね。
そう言う意味で、暁海も櫂もいくつもの遠回りをしましたが、幸せだったのかもしれませんね。
感動して泣くわけでもなく、カタルシスによってワクワクするわけでもなく、ただひたすら感情を向き合い、その結果ちょっと勇気づけられるという不思議な読書体験をさせてもらいました。