「失われたものたちの本」 著 ジョン・コナリー

「失われたものたちの本」 
著 ジョン・コナリー

ジブリの宮﨑駿監督が珍しく本の帯を書いている本です。
読んでみてすぐになぜ宮﨑さんが帯を書いているのか納得。
この作品、先日公開された宮﨑さんの最後の監督長編映画になるであろう「君たちはどう生きるか」の元ネタなんですね。

元々映画「君たちはどう生きるか」は吉野源三郎さんの「君たちはどう生きるか」を元ネタにしているとされているというのが広く知られた話でした。
もちろんその題名がそのままに使われていることからも、そちらもモチーフになっていることは間違いないでしょう。
ただテーマ等のことはさておき、単純に話の筋としては、この本作品である「失われたものたちの本」の方が参考にされていますね。
ていうか参考レベルではなく、もはや大きな設定のほとんどは本作品を下地にして作られているというのは一読すれば誰もがわかります。

もちろん本作の舞台は映画とは違ってイギリスなのですが、主人公の置かれた境遇や、戦争という時代背景などはほとんど同じですね。
ただ大きく違うのは、映画でいうところの「アオサギ」であり、本作でいうところの「ねじくれ男」です。
何がどう違うのかは、読んでみてほしいのですが、この描き方の違いに宮﨑さんなりに描きたかったことが集約されているのかなとは思いました。
どちらの描き方も面白いのですが、大きく同じようなテーマな作品であっても、こうした解釈の違いがあるというのは非常に面白いですね。
違いがあるからこそ、見ているぼくらもまた考えるわけで、テーマが自然と深掘りされていくんですね。

さて、宮﨑さんとの比較はここまでにして、本作について。
多感な少年期において、厳しい現実にぶち当たった少年が主人公なのですが、この年の子どもなりの世界の受け止め方や葛藤を非常にうまく描いています。
面白いのは、少年がかつて読んできた本を題材にファンタジーを作っている点。
本作には、誰もが知っている昔話がたくさん出てきますが、そのどれもが少年の気持ちにしたがって変えられており、またその変えられた物語が少年が入り込んでしまった世界を変えてしまっているというシチュエーションは、非常に興味深く読むことが出来ました。

ファンタジーでもこれだけ重厚なものが作れるのだということがよくわかりましたね。
大人が読んでも色々と考えさせられる物語でした。
宮﨑さんが心惹かれたというのもよくわかります。
子どもにも読んでほしいなと思いました。