「ヒロインズ」 著 ケイト・ザンブレノ

「ヒロインズ」
著 ケイト・ザンブレノ

明らかにこれまで読んだことのないタイプの本でした。ここまで感情が爆発している本はちょっとないですね。

女性であり、マイナーな作家である筆者が、モダニズム全盛期の著名な作家の虐げられた妻たちに想いを寄せ、自分自身の現状と重ね合わせていくという、いわばドキュメンタリーとも私小説ともとれるブログをまとめた本なのですが、この本の場合、読み手で女性であるのか、男性であるのか、また創作活動をしているのか、していないのかで、その読後感はまったく変わって来ると思います。

正直、男性で、自身が創作活動をしていない人にとっては、読むのがつらい本です。おそらく、男性であるというだけで非難されているような気持ちになるだろうし、なぜそんなにも筆者が書かなければならないということに取りつかれているのかも理解出来ないでしょう。
でも、逆にこの本を読んで救われる、そうなんだ、わたしと同じ気持ちの人がいるんだ!と思う女性は、たくさんいると思います。
個人的には、みんなが同じ感想を持つ必要性はどこにもないので、そういう意味ではこの本は、充分にその役割を果たしている作品なのだなと思いました。

正直ツッコミどころはいくつかあります。あまりに極端にすべてのことを男女の二元対立で捉えすぎていますし、筆者の主観オンリーで話が進むので、話がとっちらかっていて、最初のうちは読みづらいところは多分にありました。
ただ実際、この本にはそういうものを超越した何かがあるのは確かなんですよね。そこに多くの女性がこの本を読んで共感をしているのだと思います。
まあ、そもそも筆者が語る男性偏重社会のおかしさはたぶんにそうでしょうし、それによって女性が虐げられてきたという歴史も事実ですからね。

読んでいておもしろかったのは、最初は取っ散らかっていた筆者が、とにかく感情のほとばしりをぶつけて書いていくうちにだんだんと落ち着いていくのが体感できること。こういう感覚を出版された本で体験するとは思いませんでした。
つまり本全体がナラティブセラピー(自らが語ることで、自らを支配している物語を新しい肯定的な物語へと編集し直していく治療法)のような感じになっているんですよね。そういう傾向がここまでハッキリと出ている本は珍しいと思います。

それにしても、何をどうジャンル付けをしていいのか戸惑ってしまうほど、「新しい形」の本ですね、これは。誰にも真似が出来ない、極めて個人的な叫びをこんな風に一冊の本として形作っているだけで、異色でありながらも、光り輝いている本になっていると思います。こういう本もあってもいいんだっていう気にさせられますし、いかに自分たちが社会を支配している「常識」にとらわれ過ぎているのかということを思い知らされますね。

このブログを本にしようと思った編集者の慧眼ぶりがすごいと思います。