「三人の女」 著 チョ・ソニ

「三人の女」 
著 チョ・ソニ

これはすさまじい話だった。
間違いなく今年読んだ小説NO.1ですね。

日本に植民地化された朝鮮半島の中で祖国の解放のために共産主義の地下活動を行っていた三人の女性の話です。
実はこの三人の女性は、共産主義者であったこともあって、韓国国内でもほとんど名を知られていなかったそうですが、韓国でこの本が出版されたところ、こんな歴史があったのかと、当の韓国の人たちすら驚くほどのインパクトがあったそうです。
出版時が左派政権下にあったからこそ、出版も可能だったとか。

ただこの本、確かに三人の女性は皆、共産主義者であり、ある意味で朝鮮における共産主義活動の歴史を描いているのですが、共産主義を賛美しているわけでも、偏った歴史観を持っている訳でもなく、歴史的事実を丁寧に調べ上げて、この時代に何があったのか、そしてこの時代に生きた女性たちが何を感じ、何を考えていたのかを描き切っているんですよね。

極めて優れた歴史小説だと思います。
正直言って、韓国とか北朝鮮の見方が変わったというか、深まりました。
元々、歴史は好きだったので、この小説の舞台となっている出来事は表面上はもちろん知っていました。
三一万歳運動も中国における毛沢東と共産党の話も、解放後に起こった朝鮮戦争も。
でも、改めてそこに生きた人たちの視点で体感しながら読み進めると、いかに自分の理解が浅かったのかということを思い知らされました。
出会ってよかった本だと思いますし、もっと色々な人に、特に日本人に読んでもらいたい本ですね。

それにしても、この本では三人の女、許貞淑、朱世武、高明子の三人の視点で描かれているのですが、読んでいて面白かったのが、三人の女を主人公にしておいて、実はこの三人にそれほど接点がないという点なんですよね。
通常、このタイトルなら三人の友情物語だと勝手に想像してしまうのですが、三人が交錯するのは二十代の若い一時だけで、三人の関係の痕跡は、たった一枚の写真に残されているだけです。
その後、三人はそれぞれの運命に翻弄されていくのですが、同じ共産主義者であったにもかかわらず、その立ち位置やその時々の選択でまるで違う人生を辿ることになってしまったという点なんですよね。
この物語は、三人の友情物語を描いているのでなく、三人がそれぞれまったく違う運命を辿って行かざるを得なかった、その時代そのものを描き出そうとしているんだなと読んでいて思いました。

冷戦後の社会に生き、現在の北朝鮮やロシアの状況を知るわたしたちからしてみれば、なぜ共産主義にそこまで入れ込んでしまったのかと思う人もいるかもしれません。
でも、この時代において、特に植民地下に生きる人たちにとって、共産主義こそが現状打破の灯火であったことは否めないんですよね。
もしも自分がこの時代の朝鮮半島に生まれていたら、自分も共産主義に傾倒していたかもしれませんしね。

なぜ韓国の政治が右と左であそこまで対立するのかとか、北朝鮮がなぜ頑なにうちにこもっているのか、この本を体感することによって、感覚的に少しは分かったように思います。
いやあ、本当にこれはすごい歴史小説でした。
厳しいとは思いますが、この物語は出来れば映画にして多くの人に観てもらいたいです。
ていうか、するべきだと思います。

つくづく世界中の国が、こういう本が当たり前に読めて、語り合える世の中であってほしいなって思いました。