「「現代優生学」の脅威」 著 池田清彦
優生学といえば、すぐにナチスドイツを思い浮かべる人が多いと思いますが、優生学は遠くギリシア時代からあった思想であり、そもそもはダーウィンの進化論を曲解して、イギリスやアメリカで広く言われるようになった思想です。
プロテスタンティズムの考え方に乗っ取って優れた人間をいかに多く生み出していくのかを考える正の優生学と、障碍者などが生まれることをいかに防ぐかを考える負の優生学があります。
ナチスドイツは、アーリア人の優生を説いて正の優生学を推し進めるとともに、ユダヤ人や障碍者などを虐殺していくという負の優生学を実践していったわけです。
ナチスの悪行により、優生学が行き着くところの恐ろしさを知った人類は、大っぴらに優生学を口にすることはなくなりました。
ただいくら大っぴらに言われなくなったとしても、人が人を差別する心が亡くならない限り、優生学というものは形を変えて存在し続けています。
しかもヒトゲノムが解明され、遺伝子の研究が発達した現代において、様々な組み換えが理論上可能になったということで、優生学が再び目を覚まそうとしています。
本書では優生学がいかにして広がって行ったのかその歴史を紐解くとともに現在の遺伝子研究について分かりやすく説明し、優生学的な考えがいかに再び目を覚まそうとしているのかを教えてくれます。
技術の進歩が目覚ましく、倫理観についての話し合いがまったく追いついていない中で、まずは優生学がいまだに存在し、ちょっとしたことで息を吹き返すということを自覚するべきなんだと深く感じました。
確かに優生学は一見合理的にみえてしまうことがあるんですよね。
ただ合理的であるかどうかや効率性だけに目を向けるのではなく、本当に一つ一つの行動が負の連鎖を生まないのか、一歩立ち止まって考えるべきだと思いました。
色々と考えさせられる本でしたね。
特に新型コロナの章で描かれていた、「チフスのメアリー」のエピソードが印象的でした。