「鹿鳴館 擬西洋化の世界」
著 宮田 仁
「鹿鳴館」の名前は歴史を勉強した人なら誰もが聞いたことがあると思います。
三島由紀夫の小説「鹿鳴館」でも有名ですが、ようするに明治時代に作られた、西洋化を図るためと、外国人を迎賓するための施設ですね。
本書では鹿鳴館が建てられるにいたった背景を詳しく説明しているので、改めて鹿鳴館とは何だったのかがとくわかります。
どうしても華やかなダンスをしていた場所というイメージが強いのですが、背景を知れば、いかにこの施設が政治的な理由で建てられ、また政治的な理由でなくなったのかがわかりますね。
ようするに欧米との不平等条約を撤廃させるためには、欧米が認め得る文化水準に至らなければならず、それを分かりやすく見せつけるために作られたのが鹿鳴館であり、当時外務卿だった井上馨の肝入りの政策だったわけです。
政府高官や家族の妻や娘も外交のために一役買っていたんですね。
驚いたのは、鹿鳴館が鹿鳴館であったのは、わずか七年で、しかも実働していたのはもっと短かったということ。
井上馨が外務卿を辞任せざるを得なくなったと同時に、鹿鳴館を使った外交に保守派が反発し、結局、すぐに払い下げられてしまったんですね。
建物自体は昭和の初期まで残りますが、戦争の機運が高まり、国粋主義が蔓延していくと同時に屈辱的産物として取り壊されてしまったというのが、時代に翻弄された鹿鳴館らしいエピソードだと思いました。
鹿鳴館の建設に尽力した井上馨と鹿鳴館を設計したコンドルの人生が詳しく書かれていた部分はとくに面白かったです。
また当時の内装や食事がどんなものであったのかも、詳しく書いてあったので資料としては資料性も高い本ですね。