「西南戦争 延岡隊戦記」
著 河野弘善
西南戦争において宮崎延岡から参加した延岡隊の戦記です。薩摩軍そのものや対する政府官軍を書いた書物は多いですが、この本が珍しいのはいわゆる党薩隊の一つでしかない延岡隊を詳しく描いている点です。驚いたのはその情報量でよくぞここまで調べ上げたなと舌を巻きました。後世に西南戦争とは何だったのかを伝えていくためにも資料的な価値が非常に高い本だと思います。
どうしても西南戦争というと西郷と桐野利秋ら薩軍幹部の話中心にその歴史を考えてしまいがちなのですが、戦闘の多くは熊本、宮崎、大分などの周辺地域で行われているわけで、実際それらの人々の側から薩軍や西南戦争そのものがどう見られ、どう受け止められていたのかを知ることは非常に重要な観点だと思います。
特に延岡は最終的に軍隊として薩軍が解散した終焉地でありますし、宮崎県自体も鹿児島県と隣接し、良くも悪くも薩摩の影響を受け続けてきたわけで、その愛憎悲喜交々が延岡の人たちの行動として現れていたことには目を見張りました。
士族としては他藩と同じく西郷に同調し、勢い半分に延岡隊を結成して早々と送り出してしまったものの、近隣県だからこそ政府に監視恫喝され、間に立つことになったその地の政治家や有力者たちが窮地に立たされしまったこと。その一方で延岡の人々はやはり薩軍に好意的で、それに応えるが如く、薩軍も延岡の町を戦場にせずに撤退したことなどに歴史の面白みを感じましたね。
現地でしかわからないような情報を含めかなり精査してまとめられているので、これからこの方面の歴史を調べたい人にはかなり強力な資料になると思うし、読み物としても面白かったです。
ただ残念なのは昭和五十一年に出版されているがゆえに、すでに絶版となり、古本としてしか手に入れられないこと。こういう本こそ、ずっと出版し続けてほしいと強く思いました。