「狼の義 新 犬養木堂伝」 著 林新・堀川惠子

「狼の義」 

著 林新・堀川惠子

小説形式でわかりやすく表現されている犬養毅の伝記です。

犬養毅と言えば、多くの人が思い浮かべるのが現職の総理大臣として5.15事件で青年将校たちに殺されたという話です。

あまりにそのインパクトが強すぎるため、歴史に詳しくない人にとっては犬養毅といえばその話しか思い浮かばない人が多いと思うし、5.15事件自体が2.26事件よりも時代的に前であるために影が薄い印象になっているかと思います。

でも、この本を読めば、犬養毅がいかに政治家の鏡のような人物であり、また5.15事件で犬養毅が殺されたことによって、日本がどんどんと戦争にのめり込んでいったことがわかります。

藩閥の支配から脱却出来ず、立憲政治が形の上だけしか成り立っていない時代にあって、犬養は軍や藩閥に妥協せずにあくまで政党政治を推し進める清貧な政治家だったんですよね。

だからこそ長らく野党の党首であったものの、権力とはほど遠い立ち位置にいたのだし、逆に利権に屈しなかったからこそ憲政の神様とも言われていたわけです。

そんな犬養に半ば隠居したのちに首相の座が巡ってきたのは皮肉な話である一方で、軍の力が強大になっていった時代にあって、物怖じせずに軍にブレーキをかけられる可能性があったのは、犬養しかいなかったのです。

その憲政の最後の砦であった犬養が殺されたことで、日本はもはや後戻りの出来ない泥沼の戦争へと突き進んで行きます。間違いなく5.15事件は政党政治が終わったターニングポイントであり、実際にこの直後から軍中心の翼賛政治が始まっていくわけです。

「話せば分かる」というのは、暗殺される直前に犬養が暗殺者である青年将校らに向けて発したとされる言葉ですが、この言葉ほど犬養の人となりを表している言葉はないと思います。何人もの兵士に銃を向けられても、逃げることなく言葉によって分かり合うことを最期まで望んでいたんですね。犬養は、お金や名誉のためではなく、また暴力に屈することもなく、ただ話し合うことで解決を探ることが政治だと信じていた政治家であり、だからこそ民衆から人気があったんだと思います。まさに政治家の鏡のような人ですね。ホントにこういう人にこそ、国のリーダーになってほしいのですが、、、これがいないんですよね、なかなか。