オリエンタリズム エドワード・W・サイード著

「オリエンタリズム」
エドワード・W・サイード著

文芸に対する批評の目を権力に向けた作品で、世界に大きなインパクトを残した作品でもあります。
1978年に出版された本なのですが、西洋が描く東洋の表象には権力の問題が隠されていることを鋭く指摘した最初の本ですね。
平たく言えば、共産主義国家が衰退していく中で、西洋(特にアメリカ)が新たなる敵としてイスラムを描き出していくことを批判しているのですが、こういった傾向は文学や絵画などの分野にも蔓延していることを、これでもかというほどに描いています。

そして怖いのが、この本に書かれていることが今も引き続き行われていること。
9.11以降、イスラムを怖いものというイメージを広め、そういったステレオタイプを信じさせようとしている政治権力やメディアの姿勢は何も変わっていません。
確かに、一部の狂信的な勢力があることは間違いないのですが、大半のイスラムの人々は、ぼくらと何ら変わらない生活を送っている普通の人たちだということが感覚的に抜け落ちて、まるでそこには常に二元対立があるかのように煽られています。
なぜなら、敵が存在し彼らを貶めれば、政治がしやすく、色々とお金になるから。

しかもわたしたち日本人は、オリエントに属しながら、ほかのアジアの国々を西洋のオリエンタリズムの文脈の中で見ているという、複雑な立ち位置にいます。どうしてもアメリカ視点の見方が抜けられず、情報が過多になればなるほど、ステレオタイプに陥っていってしまうんですね。

そんなステレオタイプから抜け出すための第一歩として、まずはこの本を読むことをお薦めします。